倍数性は現代生命科学の重要な研究テーマのひとつである。また産業酵母の多くは高次倍数体であることから、倍数性はバイオテクノロジーの観点からも興味ある課題である。しかし高次倍数体育種技術が開発されていないことから研究は進んでいない。我々は、以前の研究で、a型株と交雑したとき、交雑体にα型接合能を付与する酵母の特異な接合型変異(matα2-102)を分離していたが、本研究は、この変異を利用して、“超”高次倍数体を育種する新規な技術を開発することを目的として行っている。昨年度には、matα2- 102変異を利用した技術によって、それまで報告のなかった6、8、10倍体が育種できることを明らかにした。そこで、本年度はこの技術によって、さらに高次の倍数体、特に同一の遺伝背景を持つ"超"高次倍数体を造成できるかどうかに挑戦した。 前年度に、高次倍数体を造成していくための交雑体選択法として、栄養要求性(Leu-)と呼吸欠損(Rho-)の2つの形質を利用する方法を確立した。そこで、この選択法を利用して、単一のa型1倍体(leu2 Rho+)株を出発株とし、matα2-102変異を持つプラスミドによるα型への形質転換と、a型親株のエチジウムブロミド処理により分離したRho-株の交雑、そしてRho-株は資化できないグリセロール(Gly)を炭素源としたロイシンを含まない培地(Gly Leu)による交雑体の選択の手順を繰り返すことにより、単一のa型1倍体から出発し、2倍体 (= 1x 1倍体)、4倍体 (= 2x 2倍体)、8倍体 (= 4x 4倍体)、16倍体(8x 8倍体)、32倍体(=16x16 倍体)まで、全く同じ遺伝背景を持つ高次倍数体シリーズを造成することができた。出芽酵母で16倍体や32倍体を造成できたのは世界初である。32倍体同士を交雑し、64倍体が造成できるか否かは今後の課題である。
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