研究課題/領域番号 |
18K19194
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
多胡 香奈子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主任研究員 (20432198)
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研究分担者 |
早津 雅仁 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境変動研究センター, 主席研究員 (70283348)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 一酸化二窒素 / 酸性土壌 / 硝化菌 / 脱窒糸状菌 |
研究実績の概要 |
本申請課題では、強酸性土壌では、好気的環境で酸性適応型アンモニア酸化細菌と脱窒糸状菌の共生系がニッチを共有し一体化しており、この共生系の反応により大量の一酸化二窒素が発生することおよびアンモニア酸化細菌が糸状菌に、酸性条件化における亜硝酸分解を回避して亜硝酸を供給する機構が存在することを明らかにし、酸性適応型アンモニア酸化細菌-脱窒糸状菌共生系が土壌で実際に機能していることを証明する。この目的を達成するために以下の成果を得た。 1.糸状菌とアンモニア酸化細菌が共生系を形成していると推定される土壌部位を特定し、そこから共生系を崩壊させずに分離するために圃場レベルで調査を行った。その結果、有機物(主に茶の葉と枝)堆積層とその直下の土壌が高い硝化能を有することを示した。 2.同様にこの土壌部位の中性型β-アンモニア酸化細菌と酸性適応型γ-AOBアンモニア酸化細菌の菌数をアンモニアオキシゲナーゼサブユニットA(amoA)を標的に定量PCRで測定したところ、両者とも下層土壌に比べて有機物堆積層とその直下の土壌の菌数が多いことが示された。 3.有機物堆積層とその直下の土壌の一酸化二窒素発生ポテンシャルを好気的条件で測定したところ、両者とも極めて高い一酸化二窒素発生ポテンシャルを示した。また有機物堆積層のpHは中性で直下の土壌は酸性であった。このことから酸性適応型アンモニア酸化細菌-脱窒糸状菌共生系と従来の中性アンモニア酸化細菌と脱窒糸状菌共生系の2つの共生系が存在すると推定された。 4.中性型アンモニア酸化細菌と脱窒糸状菌共生系のモデル実験系を構築するために、茶園土壌から分離した3株の中性型アンモニア酸化細菌のゲノム解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目的である好気的環境で酸性適応型アンモニア酸化細菌-脱窒糸状菌共生系が存在し、この共生系より大量の一酸化二窒素が発生すること明らかにするため、好気条件下で極めて高い一酸化二窒素発生ポテンシャルを有する土壌部位を特定し、共生菌の分離源を得ることができた。これにより当初の計画のモデル実験系による検討と並行して、共生系をこの土壌部位から直接分離する道筋を開拓した。また実際の土壌(有機物堆積層とその直下の土壌)におけるアンモニア酸化細菌-脱窒糸状菌共生系の存在を直接証明することを可能にした。 一方、当初計画では、耐酸性型アンモニア酸化細菌が糸状菌に、酸性条件化における亜硝酸分解を回避して亜硝酸を供給する機構に着目したが、酸性環境と同様にpHが中性付近の有機物堆積層も好気的環境で高いN2O発生ポテンシャルを有し、この部位の中性型アンモニア酸化細菌数が多いことから中性型アンモニア酸化細菌-脱窒糸状菌共生系が土壌で実際に機能している可能性を示すことができた。 加えて、茶園土壌から分離した中性型アンモニア酸化細菌3株のゲノム解析を行いその特徴を明らかにした。これにより酸性適応型アンモニア酸化細菌と中性型アンモニア酸化細菌共存下での脱窒糸状菌との共生系実験が可能となった。 以上、当初計画に従い研究を推進し目的達成に必要な成果を得ることができたので、本研究課題は順調に進捗していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本課題では、好気的環境で酸性適応型アンモニア酸化細菌-脱窒糸状菌共生系の存在とこの共生系が大量の一酸化二窒素の発生原因であることを明らかにすることを目的としている。平成30年度の厳密な土壌部位の調査により酸性適応型アンモニア酸化細菌だけでなく中性型アンモニア酸化細菌と脱窒糸状菌の共生的関係も示唆された。この結果により、多量の有機物が存在する環境でありかつ酸性から中性領域で、アンモニア酸化細菌と脱窒糸状菌が共生系を形成して一酸化二窒素を発生することを証明する計画を組み入れて研究を推進する。 このため茶園から分離した3株のアンモニア酸化細菌のゲノムを解析した。今後はまた当初計画通り土壌の多孔質構造(団粒構造)と類似の構造を持つポリビニルアルコール粒子を用いたモデル実験と並行して、一酸化二窒素発生能の高い土壌から糸状菌とアンモニア酸化細菌が共存した状態で分離する方法の検討を行い、両方のアプローチからアンモニア酸化細菌‐脱窒糸状菌共生系の存在を証明すべく研究を推進する。具体的には分離源におけるアンモニア酸化細菌―脱窒糸状菌共生系という複合微生物系が増殖可能な培養条件(培地成分、植菌源など)を検討し、目的とするアンモニア酸化細菌―脱窒糸状菌共生系を直接分離することを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題では、強酸性土壌では、好気的環境で酸性適応型アンモニア酸化細菌‐脱窒糸状菌共生系がニッチを共有し一体化しており、この共生系の反応により大量の亜酸化窒素が発生することを証明する。このためにゲノム解析が必要である。ゲノム解析については独力で生データをアセンブルする技術を習得したため外注にかかる経費が削減された。しかし当初、1菌株でトランスクリプトームを行う計画であったが、4株のアンモニア酸化細菌のゲノム解析に成功したため2年目に4倍ものトランスクリプトーム解析を行うことになり、H30年度の外注経費が減った分をH31年度で使用することとなった。またモデル実験系の実施と並行して圃場調査を実施したが、H30年度は調査圃場を管理している研究者との打ち合わせを行うことから始まり、実際の調査は秋から冬にかけての実施となったことから圃場サンプル数が減った。この減少分を再度H31年度にメタゲノム解析する必要性が生じH30年度の予算をH31年に繰り越す必要が生じた。トランスクリプトーム解析、メタゲノム解析両者とも高額試薬や高額な外注経費が必要なためH31年度への繰越額が多くなった。
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