これまでに研究対象としてきた地上から隔絶された油ガス田貯留層中には、約100万年以上前に堆積した有機物が存在している。このような地下深部から分離した微生物株を、陸源有機物に含まれている化合物を用いて培養を行った場合、特別に生産される粘性物質があった。その粘性物質が生産される条件においては、他の生育基質を用いて培養した場合よりも、55℃という高温条件において長期間培養しても菌体の溶菌が見られなかった。本研究においては、陸源有機物に含まれている化合物を基質として培養した場合に微生物により生産される物質が、高温貧栄養という深部地下環境における生き残り戦略に関係していると想定し、この物質の同定および測定法の開発を行うことを目的とした。本研究では、嫌気リアクターを用いた微生物株の大量培養を行い、菌体と粘性物質の回収を行った。さらに、菌体から粘性物質を分離し回収する方法を確立した。まず、細胞外多糖または糖脂質であることを想定して粘性物質の分析を行ったが、それらの物質ではないことが明らかとなった。官能基の推定のため、フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を用いて測定を行った。また、分子構造の同定のため、核磁気共鳴分光法(NMR)を用いて測定を行った。さらに他の手法を用いて分析を進めた結果、粘性成分を構成する各種成分の同定に成功した。この微生物株が細胞外にこれらの成分を分泌していることは初めての発見であった。
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