北日本の稲作にとって冷害の克服は重大な課題である。これまでの様々な研究により、花粉稔性の低下が冷害の原因であることや植物ホルモンが関与することなどが明らかにされてきたが、冷害を克服するための理論基盤としては十分ではない。低温環境下での稔性の低下は種子を収穫する作物に共通する問題である。 本研究の基盤となるのは、植物に特異的な細胞周期抑制因子であるEL2とEL2-like遺伝子が低温などの不良環境下において捻性を維持するうえで必須の遺伝子であるという独自の知見である。この知見に基づき、これら遺伝子の機能を解析することにより冷害が起こるメカニズムを理解し、さらに、冷害に強いイネを作出するための新たなストラテジーを提案することを目的とする。 今年度は、まず、野生型イネを用いて稔性に対する低温の影響を評価する育成法を検討した。イネは、温度と光条件を制御できる人工気象機で育成した。通常の温度条件および長日条件で第8葉期まで育成した個体に1週間の短日処理を行い穂の成長を誘導した。その後、通常の温度条件および長日条件に戻して3週間育成した後に、様々な温度条件で育成し稔性を調査した。この結果から、穂が形成される時期の低温に対する反応の概要を知ることができた。また、通常の育成条件では、野生型植物、EL2およびEL2-like遺伝子の機能欠損したel2、el2-like変異体、これらの二重変異体の間で稔性に差がないことを確認した。穂が形成される時期に低温で育成し、稔性への影響を比較する実験を開始した。
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