バキュロウイルスの遺伝子組換えは、一般的に培養細胞を用いた相同組換えにより作製されるため、感染可能な培養細胞がないウイルス種では組換えウイルスが作製できない。しかし、マイクロインジェクション法を用いて、未分化の細胞の核内に大腸菌で遺伝子組換えを行なったバクミドDNA(大腸菌の複製起点をもつ組換えバキュロウイルス)を注射すれば、培養細胞を使用せずに組換えバキュロウイルスが作製できると考えた。チャノコカクモンハマキ核多角体病ウイルス(AdhoNPV)は、感染可能な培養細胞がない。また、チャノコカクモンハマキは扁平な卵塊を産卵するため注射接種が困難である。本研究はマーカー遺伝子を搭載した組換えAdhoNPVを作製して宿主体内での感染機構を調査するため、本種の卵にウイルスDNAを注射接種する方法を検討した。 前年度に引き続き、チャノコカクモンハマキの卵塊から分離した単体の卵と卵塊全体に注射接種する方法をそれぞれ検討した。卵塊を化学的に分離する方法を検討した結果、卵塊をばらばらにして防腐剤の入ったゲルを添付したスライドグラスに固定することはできたが、それらの卵の孵化が低かった。卵の孵化率低下に関わる要因を調べて特定することができたが、より多くの卵への注射接種を可能にするために、卵塊に直接注射する方法を検討した。卵塊における成虫の交尾や産卵の明暗期を調節することにより、産卵4時間以内の卵を回収する方法が確立でき、卵塊に注射接種を行うことが可能になった。
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