研究課題/領域番号 |
18K19211
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
掛田 克行 三重大学, 生物資源学研究科, 教授 (50221867)
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研究分担者 |
岡本 龍史 首都大学東京, 理学研究科, 教授 (50285095)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / 半数体 / in vitro受精 |
研究実績の概要 |
本研究では、ムギ類の遠縁交雑による半数体作出法と受精卵を用いたゲノム編集技術を組み合わせることで斬新なムギ類ゲノム編集技術の確立を目的としている。本年度は、主に下記の4項目について研究を実施した。 1) IVF系を用いたムギ類半数体植物の作出: 前年度にトウモロコシ精細胞とコムギ卵細胞を融合させた交雑受精卵を培養することで半数体コムギを得ることに成功したが、トウモロコシ花は年間を通じた材料調達が難しい。そこで今年度は、通年調達が可能なイネ花から単離したイネ精細胞とコムギ卵細胞を融合させた交雑受精卵を作出・培養することで半数体コムギを得ることが出来るか否か検証を進めた。 2) コムギ、トウモロコシ、イネのセントロメア・テロメア・反復DNA配列の可視化: 昨年度の解析より、トウモロコシ-コムギ交雑受精卵の発生過程においてトウモロコシ染色体・ゲノムの脱落が生じていることが示された。また、イネ-コムギ交雑受精卵においても同様の脱落が生じる可能性が高い。そこで、このゲノム脱落が受精卵のどの発生段階で生じるか明らかにする目的のために、RGEN-ISL法によるコムギ、トウモロコシ、およびイネ染色体の可視化法の確立を試みた。 3) 再生植物のゲノムリシークエンシング: 再生植物体はトウモロコシまたはイネ染色体・ゲノムの一部を保持している可能性があることから、再生植物体のゲノムシークエンシング解析を進めた。 4) PEG-Ca2+法によるコムギ卵細胞および受精卵への物質導入系の確立:前年度にイネ受精卵へのCas9-gRNA RNP導入によるゲノム編集イネ作出が可能であることが示されたので、はトウモロコシ-コムギ交雑受精卵またはイネ-コムギ交雑受精卵のCas9-gRNA RNP処理法の確立を目的として、コムギ卵細胞および受精卵への物質導入系の確立を試みた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)IVF系を用いたムギ類半数体植物の作出:イネ精細胞-コムギ卵細胞の交雑受精卵は発生しなかったが、核相を倍にした2nイネ精細胞を用いて作出した交雑受精卵は分裂・増殖を進め、植物体にまで再分化・発生した。再分化個体はほぼコムギの形態であり、フローサイトメトリー解析からコムギの約半分の核内DNA量であることが示された。以上より、当該交雑受精卵の発生過程においてイネ染色体・ゲノムが脱落していると考えられたが、矮性形質を示す個体もあり、再生植物体はイネ染色体・ゲノムの一部を保持している可能性が考えられた。 2)コムギ、トウモロコシ、イネのセントロメア・テロメア・反復DNA配列の可視化:イネ、トウモロコシおよびコムギのゲノムDNA配列情報をRepeatExplorerにより解析および分類し、得られた反復DNA配列情報を参照にRGEN-ISLに用いるcrRNA 44種(コムギ22種、トウモロコシ11種、イネ11種)を設計および合成した。3つの植物種の葉を固定したのちに核抽出を行い、cytospinによりそれら核をスライドガラスに貼り付けたのち、上記の44種のcrRNAを用いてRGEN-ISLを行った。その結果、9種のcrRNA(コムギ2種、トウモロコシ1種、イネ6種)において蛍光シグナルの検出が可能であった。 3)再生植物のゲノムリシークエンシング:コムギ-トウモロコシ交雑受精卵由来の半数性コムギに関してもゲノムリシークエンスを進めたところ、コムギゲノムにトウモロコシゲノム断片が挿入されていることが示唆された。 4)PEG-Ca2+法によるコムギ卵細胞および受精卵への物質導入系の確立:イネ卵細胞またはイネ受精卵と同様の条件でコムギ卵細胞および受精卵へのPEG-Ca2+法によるプラスミドDNAの導入を試みたが、プラスミドDNA由来の蛍光タンパク質の発現の確認には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1)コムキ-トウモロコシ交雑受精卵およびコムギ-イネ交雑受精卵由来の植物体におけるゲノム組成: コムキ-トウモロコシ交雑受精卵由来の半数性コムギについては、コムギゲノムへのトウモロコシゲノムDNA小断片の挿入が示唆されたので、挿入断片に対するゲノムPCRを行うことでその挿入を確認する。コムキ-イネ交雑受精卵由来の半数性コムギについては、リシークエンス結果を参考に同様の解析を計画している。 2)コムギ、トウモロコシ、イネのセントロメア・テロメア・反復DNA配列の可視化: 前年度の解析により9種のcrRNA(コムギ2種、トウモロコシ1種、イネ6種)がRGEN-ISL法に利用可能なことが示されたので、今年度は卵細胞、受精卵および初期胚を材料にしたRGEN-ISL解析により、交雑受精卵・胚中におけるトウモロコシおよびイネ染色体(ゲノム)の可視化し、交雑受精卵のどの発生過程においてトウモロコシゲノムあるいはイネゲノムの脱落が生じるか明らかにする。 3)コムギ受精卵への物質導入系の確立: PEG-Ca2+処理時に低濃度のアガロースを添加する、あるいはCa2+濃度を上げるなど、イネ卵細胞・受精卵の系を改変することで、コムギ卵細胞・受精卵への物質導入系を確立する。 4)交雑受精卵のCas9-gRNA RNP処理によるゲノム編集半数体の作出: コムギAP2遺伝子およびDL遺伝子の標的遺伝子ガイドRNAとCas9タンパク質の複合体(Cas9-gRNA RNP)を形成させたのち、コムキ-トウモロコシ交雑受精卵内にPEG-Ca2+法を用いて導入し、その受精卵から植物体を再分化させ、編集ゲノム部位の特定、表現型、倍数性の評価などを行う。さらに、半数体植物のコルヒチン処理により倍加半数体(二倍体)を作出し、自殖種子を得る。さらに、自殖次代植物において、それらの形質評価および編集遺伝子の伝達の確認などを行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、コムギ卵細胞と、トウモロコシまたはイネ精細胞の遠縁交雑受精卵に由来するコムギ半数体の作出に関して大きな成果が得られたが、これらの交雑受精卵を用いたゲノム編集実験を実施するには至らなかった。この主な原因として、コムギ自体の卵細胞または受精卵への物質導入系が確立されていないため、コムギのRNP-CRISPR法の検討を進められなかったことによる。このため、次年度は、PEG-Ca2+処理の改変によってコムギ卵細胞・受精卵への物質導入系の確立した後、RNP-CRISPR法によるコムギおよび遠縁交雑受精卵のゲノム編集を本格的に実施していく計画である。
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