研究課題/領域番号 |
18K19212
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高野 義孝 京都大学, 農学研究科, 教授 (80293918)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | PAMP誘導免疫 / 多様性 / nlp24 / flg22 / シロイヌナズナ / nsl1変異体 / サプレッサー変異体 |
研究実績の概要 |
シロイヌナズナnsl1変異体は、PAMPであるflg22ペプチドに処理によって自発的細胞死に基づく壊死斑を形成する。最近になり、別のPAMP であるnlp24ペプチドではflg22の10分の1の濃度でもnsl1変異体で壊死斑形成が起きることを見出しており、このことは、PAMP誘導免疫の多様性を強く示唆する。しかし、植物のPAMP誘導免疫システムは共通性が非常に高いと捉えられてきており、その多様性の背景についてはほとんどわかっていない。本研究では、ほとんど知見のない、nlp24が活性化するPAMP誘導免疫経路に特異的に関与する遺伝子の同定に挑戦する。本年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1. nsl1変異体の自発的細胞死に関するサプレッサー変異体のスクリーニングを実施した。スクリーニングでは、nsl1変異体に自発的細胞死を引き起こすウリ類炭疽病菌の接種をおこない、壊死斑を形成しない変異体を探索した。これまでに、nsl1変異体のM2植物5,292個体をスクリーニングし、24のサプレッサー変異体を同定している。現在、この中でnlp24が誘導する細胞死が抑制される一方、flg22が誘導する細胞死が抑制されない変異体を選抜している。また、ウリ類炭疽病菌の接種によるnsl1細胞死とnlp24が誘導するnsl1細胞死には、ともにエチレン経路因子であるEIN2が関与することを明らかにしている。 2. nlp24が誘導するnsl1細胞死にエチレン経路が関与する結果に基づき、ERF1の発現を調べた結果、flg22と比較してnlp24によってERF1の発現が迅速かつ高く誘導されることを発見した。そこで、nlp24が活性化するPAMP誘導免疫経路に関わる遺伝子群を同定するもう一つのアプローチとして、現在、nlp24処理時におけるERF1の発現を指標に変異体スクリーニングを進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
nlp24が活性化するPAMP誘導免疫経路に特異的に関与する遺伝子を同定し、PAMP誘導免疫経路の多様性に関わる分子機構を解明することを目的として、nsl1変異体の自発的細胞死に関するサプレッサー変異体のスクリーニングを実施したが、想定以上である、24のサプレッサー変異体の同定に成功している。これらの中で、nlp24が誘導する細胞死が抑制され、flg22が誘導する細胞死が抑制されない変異体が存在すれば、決定的な成果につながると期待される。また、nlp24が誘導するnsl1細胞死にエチレン経路の因子であるEIN2 が関与することを明らかにしており、その結果に基づき、ERF1の発現を指標にしたレポーターラインを親株とする変異体スクリーニング系を構築した。今後、本スクリーニング系から、nlp24処理時にERF1遺伝子(エチレンによって発現誘導される遺伝子)の発現が上昇しない変異体をスクリーニングする。これらの変異体を解析することにより、どのようにnlp24がflg22よりも強くエチレン経路を活性化するかを明らかにできると予想され、大きな前進と評価している。以上のように、本研究は順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
自発的細胞死に対するシロイヌナズナnsl1変異体のサプレッサー変異体について、まずは、nlp24が誘導する細胞死が抑制され、flg22が誘導する細胞死が抑制されない変異体を選抜し、その変異体の原因遺伝子についてMutMAP法と呼ばれる手法を用いて同定する。すでに、これらの変異体の原因変異はF2植物での表現型解析よりそれぞれ一遺伝子座に支配されていることを明らかにしている。遺伝子の同定に成功すれば、引き続き当該遺伝子の機能解析を実施していく。また、nlp24が誘導するnsl1細胞死には、エチレン経路が関与することを明らかにしたので、nlp24が誘導するPAMP誘導免疫とエチレン経路の関係を解析していく。この問題については、特に、本年度に確立したERF1遺伝子の発現を指標にしたレポーターラインを親株としたスクリーニングとその変異体解析を通じて取り組んでいく。すでに変異体スクリーニングはスタートしており、複数の目的とする変異体の同定に成功しており、スクリーニングを継続するとともに、MutMAP法でその原因遺伝子を同定していく方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、nlp24が誘導するnsl1細胞死には、エチレン経路が関与することを新たに発見したので、この発見を起点としたERFレポーターラインに対するスクリーニングに注力したために、予定していたRNAシークエンスに関する受託解析を次年度に実施するかたちに調整している。これらの調整などより次年度使用額が生じている。次年度は予定していたRNAシークエンスも実施し、翌年度分として請求した助成金と次年度使用額を合わせて使用する計画である。
|