植物の散布様式の一つに、果肉を報酬として鳥に種子散布を託す方法がある。我々はこのことに着想を得て、卵を持ったメス昆虫が鳥に摂食された場合、未消化のまま卵が排泄され分散に寄与しうるとの仮説を立て、固い卵殻を持つナナフシの卵をヒヨドリに摂食させた。摂食実験の結果、ナナフシモドキとエダナナフシのいずれについても、20~80%の卵が無傷で排泄されることが明らかになった。さらに両種ともに、鳥の糞から回収した卵から実際にふ化が起こることも確認できた。 ナナフシモドキの系統解析においては、ミトコンドリア、核マイクロサテライト、SNP解析のいずれにおいても、サンプル採取地と種内系統の明瞭な関係は認められなかった。これらのサンプルは、福島を北限に、関東、中部、近畿、中国、四国にまたがる広い収集されている。それにもかかわらず、種内の地理的な構造が確認できなかったことは、翅をもたず、能動的な分散能力が低いと予想されるナナフシモドキにおいて、受動的な長距離移動を示唆する結果といえる。 距離による隔離の効果については、使用する遺伝マーカーや対象とする地域によって得られる結果が異なっていたが、ミトコンドリアDNAのデータでは距離による隔離の効果は確認されなかった。以上のように本研究では、「単為生殖を行うナナフシにおいては、鳥類による受動分散が起こりうる」という当初の仮説を支持する証拠が得られた。本研究は、新しい昆虫の分散方法を提唱する新規性の高い研究といえる。
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