本研究では、一年生と多年生の生態型がみられるアジアの野生イネOryza rufipogonを研究対象として、その生態型決定機構の解明を目的としている。本年度は、生態型の違いを導く器官として節に注目し、節間伸長能力に関する遺伝子座間における対立遺伝子の効果の検証を行った。 栽培イネのほとんどは地際の節に茎頂分裂組織があるため、幼穂形成もそこで行われる。一方、野生イネには節を上に移行するものがみられる。この組織からは芽と根が形成されるため、多年生の成長戦略に関係が深いと考えられる。そこで、節を上に移行する野生イネ系統O. rufipogon W149を幼穂形成まで節を上昇させない栽培イネO. sativa Japonica Nipponbareで戻し交雑したBC1F1個体を作出した。それらのうち、昨年度推定した3つの遺伝子座全てでヘテロの遺伝子型を持つNo. 129個体を自殖させたBC1F2分離集団の282個体を展開した。そして幼苗期において、遺伝子座近傍の分子マーカーを用いて、3つの遺伝子座で野生ホモまたは栽培ホモの遺伝子型を持つ系統を選抜した。選抜個体はポットに移植し、10.5葉期の主幹における節間伸長を計測した。その結果、3つの遺伝子座全てで野生ホモ型であったグループは平均約7 cmの旺盛な節間伸長を示した。次いで、2つの遺伝子座で野生ホモ型であった3つのグループが約2-4 cmの節間伸長で続いた。3つの遺伝子座のうちいずれか1つが野生ホモ型であったものについては、約1 cmの節間伸長したものが1グループ、全く節間伸長が見られなかったものが2つのグループであった。以上の通り、前年度推定した3つの遺伝子座における野生イネの対立遺伝子には、節間伸長を促進する効果があること、またそれらの作用は相加的であることを確認した。
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