研究課題
トマトに重要病害を引き起こすトマト萎凋病菌の小型染色体には病原性関連遺伝子やトランスポゾン等の反復配列が集中的に座乗しており,トマトへの病原力を支配している。小型染色体は生存に必須でないため,細菌のプラスミドのように水平伝搬して病原性を獲得し,変異蓄積によって病原性を変化させる。本研究では独自のゲノム編集技術を用いることで,この小型染色体内の不要遺伝子領域を取り除き,糸状菌の人工染色体の作出する。作出した人工染色体の新たな遺伝子工学的有用性を検証すると共に,植物病原菌のゲノム機能・構造ならびに進化機構の解析に用いることで「創って解析・理解する」新たな研究手法の確立に挑戦する。本年度は,Fusarium oxysporumに最適化したCRISPR/Cas9システムのさらなる改良に着手した。具体的には,CRISPR/Cas9の核局在シグナルを内生NLSに改変した。改変したCRISPR/Cas9システムを用いることで,破壊効率の低い (17%) 遺伝子座 (Lig4) においても高効率 (-100%) での遺伝子破壊が可能となり,高効率多重遺伝子破壊,シングルクロスオーバーを介した点変異導入,ショートホモロジーを介した外来DNAの簡易ノックイン手法の開発に成功した。加えて,オフターゲット活性と広域欠失を抑制し,網羅的な遺伝子破壊を可能とする非相同末端結合修復を介したハイスループット遺伝子破壊法を開発した。現在,小型染色体のに座乗する遺伝子群の破壊ならびに解析に着手している。また,人工的に作製したテロメア配列をプラスミドベクターに挿入することで,細胞内で複製する人工ベクター (染色体) として保持される可能性を見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
計画していたゲノム編集法に加え,ハイスループット遺伝子破壊法の開発に成功した。また,細胞内での小型染色体を編集することで人工染色体の構築を計画していたが,人工的に合成したテロメア配列の付加によっても,外来DNA配列を細胞内で複製・保持させることが可能であると想定された。
改良したゲノム編集手法を用いて,小型染色体に座乗する推定病原性関連遺伝子の網羅的な遺伝子破壊ならびに機能解析を実施すると共に,染色体領域ごとの病原性への関与について調査する。また,テロメア配列挿入による外来DNAの複製・保持機構の詳細を明らかにすると共に,人工染色体としての利用,小型染色体の水平伝播機構についての解析を進めていく。
計画よりもスムーズにゲノム編集系ならびに人工ベクターの構築に成功したため次年度使用額が生じた。本年度は,GPCR等の解析対象となる遺伝子数を増やして,水平伝播機構の解析等を実施していく。
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iScience
巻: 23 ページ: 100786~100786
10.1016/j.isci.2019.100786