研究課題/領域番号 |
18K19220
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
伊澤 晴彦 国立感染症研究所, 昆虫医科学部, 室長 (90370965)
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研究分担者 |
沢辺 京子 国立感染症研究所, 昆虫医科学部, 主任研究官 (10215923)
糸川 健太郎 国立感染症研究所, 病原体ゲノム解析研究センター, 主任研究官 (70769992)
小林 大介 国立感染症研究所, 昆虫医科学部, 研究員 (40829850)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2022-03-31
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キーワード | 昆虫 / 感染症 / 病原体 / 害虫管理 / ウイルス叢 |
研究実績の概要 |
前年度までにコガタアカイエカの実験室飼育系統においてトティウイルス(Culex vishnui subgroup totivirus)の持続感染を確認した。また今回、新たにウイルス叢解析を実施した結果、実験室飼育系統のヤマトヤブカにおいても、ナルナウイルス(Aedes japonicus narnavirus 1)の持続感染を確認した。これら2種の蚊系統を用いて、日本脳炎ウイルス(JEV)の感染実験を実施し、持続感染ウイルスの存在の有無において、JEVの感染動態が変化するかどうかの解析を行った。その結果、トティウイルスとナルナウイルスはともに宿主蚊のJEVの感染に何ら影響を与えないことが判明した。 また、これまでの研究において、野外蚊は多様なウイルスを保有している事実を明らかにしてきたが、そのウイルス叢は宿主蚊の集団中に安定的に維持されているものであるのか、あるいは季節的・年次的に変動するのかどうかに関する情報はなかった。そのため今回、2016-2018年に東京都の同一調査地点で捕集されたヒトスジシマカおよびアカイエカ種群蚊を用いて、ウイルス叢解析を実施した。その結果、ヒトスジシマカにおいては18種のウイルスが検出され、一方でアカイエカ種群蚊においては17種のウイルスが検出された。アカイエカ種群蚊においては、季節におけるウイルス検出状況に特段の差や傾向は観察されなかったが、ヒトスジシマカにおいては、越冬卵から生育した成虫の発生時期である5~6月に捕集された個体は、ウイルス叢の多様性がやや低い傾向が観察された。また、アカイエカ種群蚊においては、検出されるウイルス種の変動が大きかったのに対して、ヒトスジシマカにおいては多くのウイルスが、観察年や季節に関係なく検出される傾向にあった。以上の研究によって、野外の蚊における保有ウイルス叢の変動実態が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究によって、野外蚊におけるウイルス叢の多様性やその季節・年次変動の解析といった生態学研究によって、日本国内の疾病媒介蚊におけるウイルス叢の理解は大きく前進したといえる。しかしながら当初の目的であった、病原ウイルスと競合あるいは排除する有用な昆虫ウイルスの探索という点においては、未だ大きな進展がみられていない。今回、実験室飼育系統に持続感染しているトティウイルスとナルナウイルスにおいては、ヒト病原ウイルスである日本脳炎ウイルスの増殖には影響を与えないという事実が判明したものの、野外蚊はこれらのウイルス以外にも多様な昆虫ウイルスを保有していることから、引き続き様々な昆虫ウイルスを対象にして、病原ウイルスの感染・増殖に影響を与えるようなウイルスを探索する実験を実施することが必要であると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
すでに保有ウイルス叢の解析を実施している蚊の実験室系統に対して病原ウイルスの感染実験を行い、病原ウイルスの感染・増殖に影響を与えるようなウイルスを引き続き探索する。また、野外蚊のウイルス叢を実験室系統の蚊へ移植する方法を確立し、同様に病原ウイルスと競合・排除するようなウイルスの探索を引き続き実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症流行による実験関連資材の輸入量減少に伴う納期遅延のため、予定していた実験遂行が一時滞ったため。 滞っていた実験に用いる実験関連資材の購入や成果発表等に使用する。
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