研究課題
これまでの研究で、日本脳炎ウイルス媒介蚊であるコガタアカイエカのRNAウイルス叢は、日本国内の異なる地点(石川県、鳥取県、長崎県)で捕集された個体群においては、多くのウイルスを共通して保有していることが示されている。このことは、当該蚊種の長距離飛翔をする特性により、各調査地点の集団間で(遺伝的)交流が存在することが要因の一つであると考えられる。蚊の保有するウイルス叢の地理的な特異性を検証するため、コガタアカイエカと近縁で同様の生態的特性を持つシロハシイエカを対象として、集団間の直接的な遺伝的交流が起こりにくいと予想される日本とインドネシアで捕集された個体群を用いて、それらのウイルス叢の比較解析を行った。先行研究において日本産シロハシイエカからは11種のウイルスが検出されていたが、今回の解析により、インドネシア産シロハシイエカからは、16種の新規ウイルスを含む22種のウイルスが検出された。また、日本産とインドネシア産とで共通に検出されたウイルス種はわずか3種類に留まった。このことから、宿主蚊集団が地理的に隔離された環境下においては、たとえ同種であっても保有するウイルス叢は全く異なることが明らかとなった。蚊の保有する昆虫特異的ウイルスと蚊媒介ウイルスとの相互作用を解析するために、感染実験に用いる蚊の実験室飼育系統の選定を行った。各種系統のRNAウイルス叢解析を実施した結果、2019年に群馬県にて捕集されたヒトスジシマカに由来する系統が最も多様なウイルス種(合計6種)を保有していることが判明した。そのため、本系統を用いたデングウイルス血清型1型(DENV-1)の感染実験を行った。DENV-1感染・非感染個体における昆虫特異的ウイルスの保有状況の関連を解析した結果、DENV-1感染状態と有意に相関関係にあるウイルスは確認されなかった。
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