研究実績の概要 |
近年、全ゲノム情報が容易に取得可能となったことから、世界的にゲノム情報を利用した育種プロジェクトが実施されている。一般的な養殖魚は初回成熟を迎えるのに数年を要するため、長い世代間隔は育種の効率化において律速となる。しかし、依然、初回成熟機構に関する知見は乏しく、初回成熟を早める(早熟化)確実な技術は確立されていない。そこで本研究では、順遺伝学的アプローチにより、魚類の初回成熟機構の遺伝的特性を解明することを目的とする。
具体的には、連携研究者の所属する東京海洋大学で継代維持されている、一般的なニジマスと同様に雄満2歳、雌満3歳で初回成熟を迎える「大泉系統」ニジマス、および大泉系統より1年早く初回成熟を迎える「早熟系統」ニジマスをゲノムワイド関連解析に供し、早熟性に関連する遺伝子を探索する。将来的に、早熟性に関わる遺伝子に内分泌学的な考察を加える可能性が高いことから、今年度は、早熟系統の雄個体が初回成熟を迎える満1歳までの間、継時的に生殖腺、血中性ステロイドホルモン測定用の血清およびゲノムDNAを抽出するための鰭をサンプリングした。対照区として大泉系統の雄個体もサンプリングした。
各系統のニジマスからゲノムDNAを抽出し、次世代シーケンサーにより全ゲノム領域を対象とした遺伝子多型の探索を行った。多型情報の取得にはGRAS-Di法を利用した。その結果、1,360,503座の遺伝子多型が検出され、フィルタリング後、18,828座の一塩基多型(SNP)を得た。これらSNP情報を用いて集団構造解析を行ったところ、大泉系統と早熟系統を明瞭に区別することができた。このことから、今年度取得したSNP座は遺伝学的研究に利用できる可能性が示唆された。今後は、これらSNP座がゲノムワイド関連解析に適用できるのか精査する必要がある。
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