研究課題/領域番号 |
18K19225
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
菊池 潔 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (20292790)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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キーワード | 早熟 / 初回成熟 |
研究実績の概要 |
近年、ゲノム情報を利用した育種プロジェクトが海外で実施されている。一般的な養殖魚は初回成熟を迎えるのに数年を要するが、この長い世代間隔が育種プロジェクトの律速段階となっている。しかし、初回成熟機構に関する知見は乏しく、初回成熟を早める技術は確立されていない。そこで本研究では、魚類の初回成熟機構の遺伝基盤を明らかにすることを目的とする。
具体的には、連携研究者の所属する東京海洋大学で継代維持されている、一般的なニジマスと同様に雄満2歳、雌満3歳で初回成熟を迎える「大泉系統」ニジマス、および大泉系統より1年早く初回成熟を迎える「早熟系統」ニジマスを用いて、早熟性に関連する遺伝子を探索する。昨年度はGRAS-Di法を用いて早熟系統および大泉系統の多型情報を取得した。今年度は、この情報を解析して各系統の遺伝的特徴を明らかにし、さらに、系統間で分化の大きいゲノム領域を解析して、早熟性に関与していると予想されるゲノム領域を探索した。
昨年度に取得した17,498座のSNP情報をもとに、各系統の遺伝的特徴を解析した結果、各系統のヘテロ接合度は大泉系統でHe=0.30、早熟系統でHe=0.25で、早熟系統において遺伝的多様度の低下が認められた。この低下はゲノム全体で認められた。また、早熟系統では、全SNP座うち21.6%にあたる3,778座で多型が失われていた。早熟系統は、大泉系統内の早熟個体を選抜して作出された集団であることから、創始者効果により、ゲノム全体の遺伝的多様性が低下したと考えられた。次に、大泉系統と早熟系統間で遺伝的に分化したゲノム領域を探索した結果、3番染色体と20番染色体において、有意に分化している領域が認められた。そのうち20番染色体では、配偶子形成において重要な働きを示す遺伝子近傍で有意な遺伝的分化が認められた。今後は、これら遺伝子が早熟性に寄与しているかを精査していく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
解析集団に病気が発生したことで遅れている面もあるが、GRAS-Diを用いた解析から得られた成果が大きく、総じて研究進捗は順調ということができる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果から、GRAS-Diを用いたSNP情報をもとに両系統間で遺伝的分化が進んだ領域を絞り込むことができたが、SNP数が少なく解像度が低かった。そこで今年度は、pool-seq法を用いた全ゲノム配列データからより高密度なSNP情報を取得し、選抜の過程で強い選択圧を受けた領域について、より詳細に解析していく。また、昨年度に系統間交配第2世代の雄個体が性成熟を迎えたため、初回成熟時期とGRAS-Di法により取得した多型情報を用いて、ゲノムワイド関連解析を行う。得られた解析結果と、上述の結果を併せることで、早熟性を生み出している可能性の高いゲノム領域あるいは遺伝子を探索していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
解析集団の一部に水カビ病が発症したため、この交配集団を用いた解析ができなかった。この解析は今年度行う予定である。
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