A. simplex s.s.およびA. pegreffiiの孵化幼虫の高温耐性を調べたところ、A. pegreffiiはA. simplex s.s.よりも高温耐性がみとめられた。3期幼虫に関しても同様に比較したところ、孵化幼虫ほどではないものの、A. pegreffiiのほうが高い高温耐性をしめした。 平成30年度に引き続き、日本近海のミンククジラから得られたAnisakisについてその種組成を調査した。その結果、日本海系群の個体にはA. pegrefiiが、太平洋系群の個体にはA. simplex s.s.が優占して寄生していた。また、北海道近海で捕獲された日本海系群には未成熟虫体にA. simplex s.s.が、成熟虫体にはA. pegreffiiが優占して寄生している個体が認められた。このような個体では、日本海を回遊している時期にA. pegreffiiが寄生し、その後北海道沿岸に移動してA. simplex s.s.が寄生したと推察された。 様々な海域から得られた魚種について寄生しているAnisakisの種組成を調べた。これまで調査が不十分だった日本海北部海域ではA. simpexが優占していた。従来、東シナ海・日本海の魚種にはA. pegreffiiが、太平洋ではA. simplex s.s.が優占しているという考えれていたが、長崎県西方沖で漁獲されたマサバではA. simplex s.s.が優占していた例や東北太平洋沿岸で漁獲されたマサバにA. pegreffiiが比較的多く寄生した例も観察され、Anisakisの種の地域的分布は従来考えられていたほど確固としてものではなく、様々な要因で変化するものと推察された。
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