本研究は、主要な生殖腺刺激ホルモンであるろ胞刺激ホルモン(FSH)および黄体形成ホルモン(LHR)を標的として哺乳類抗血清を調製し、これらの抗体を魚類個体に投与することにより生殖腺の発達を阻害できるかどうかを調べることを目的として、ニジマスを対象に研究を行った。 昨年度調製したニジマス濾胞刺激ホルモン受容体(FSHR)、および黄体形成ホルモン受容体(LHR)に対する抗体についてウサギ抗血清からProteinAカラムを用いて精製した。得られた抗体を経時的にニジマス個体に投与し、生殖腺の発達を観察したところ、摂取区で個体の体重および除生殖腺体重のいずれも若干対照区のものより高くなった。しかしながら、対照区では寄生虫による感染症が発生したため、この影響が抗体投与によるものかどうかは不明である。また、生殖腺の発達については雄雌とも2つの実験区間で顕著な差はみられなかった。このように、特異抗体の投与のみでは生殖腺の発達を顕著に阻害することはできなかった。 一方、本研究で調製した抗体の特異性については免疫染色で確認したが、はっきりとしたシグナルを検出することができなかった。また、FHSRおよびLHR遺伝子の発現動態から、これらの遺伝子の発現は時期特異的であり、抗体による阻害実験を行うには適していなかった可能性が考えられた。そこで、他の研究グループが調製したニジマス始原生殖細胞を認識するモノクローナル抗体より抗原認識部位をコードする遺伝子断片を調製し、これらを組み合わせることで一本鎖抗体とGFPの融合タンパク質を発現するプラスミドベクターを作製した。本ベクターを個体に投与したところ、生殖腺周辺で蛍光がみられた。
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