研究実績の概要 |
自然界には、ホモキラリティーの問題(一対の鏡像異性体がある場合、どちらかの鏡像異性体に偏って存在する現象)が存在する。グルコースもD体とL体が存在するが、自然界にはD体しか存在しない。そのため、天然セルロースもD体のみである。しかしなから、天然セルロースのキラル性(D体の構造)は、天然セルロースの高度利用を図る上で、重要な観点であるものの、そのキラル性の諸物性への影響についてはほとんどわかっていない。これは、主に、D体の鏡像異性体であるL体が入手不能であったことによる。 そこで、研究最終年度では、当初の研究計画の「天然セルロースの鏡像異性体(L体)・ラセミ体(D/L体)の調製とその評価」について主に検討した。前者の鏡像異性体については、調製とその基本的な物性評価が終了し、例えば、L体のセルロースの基本的な性質は、光学的性質以外、ほぼ天然セルロース(D体)と同一であった。後者については、上述のL体のセルロースの調製法を適用することにより、D/L比=1/1のセルロースの調製に成功した。合成したD/L-セルロースは、非晶セルロースであり、また、旋光度がほぼ0度である光学不活性セルロースであることが判明した。これは、D-グルコースとL-グルコースからなる共重合体型のセルロース(D,L-セルロース)の初めての合成例である。 以上のように、天然セルロースの鏡像異性体(L体)とラセミ体(D/L体)の調製法が確立したことから、天然セルロースのキラル性(D体の構造)に関する研究基盤が整ったと考えられる。
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