研究課題
本年は師管液・仮道管液の採取および分析を行ったのでその結果について報告する。12月上旬に樹齢約60年のスギを伐採し、地際より140~240cmの幹の部分を試料として用いた。外樹皮を剥がしたのち、内樹皮をはぎとり、細断してフィルター付き遠心管にセットし、1,000×gで30分間遠心しんた。遠心管の底に集めた液を師管液とした。また、辺材部を遠心管に入る大きさに細断し、同様に遠心することで仮道管液を採取した。さらに、それぞれの液を12,000×g、30分遠心して上澄を得て加熱処理を行った。最後に3kDaの遠心濃縮フィルーを用いて遠心濃縮を行い、膜上層画分とろ液画分に分画した。ペプチド分析はCosmosil 5C18-ARカラムを用いて逆相クロマトで行い、また、。ゲル濾過後にオリゴ糖画分を得て順相液クロによってオリゴ糖分析を行った。師管液の膜上層画分をペプチド分析した結果、明瞭なピークが6本見られた。これらのピークを現在、N-末端分析、ESI-MS分析を行っているところである。仮道管液の膜上層画分からは師管液のような明瞭なピークは確認されず、仮道管液にはペプチドはないと判断される。また、オリゴ糖分析の結果、師管液からは4~12糖に相当するオリゴ糖が、仮道管液からは5~20糖に相当するオリゴ糖が検出された。師管液中に糖が存在することは予測されたが、従来水分通道組織と考えられていた仮道管液からオリゴ糖が見出されたのは新たな発見であると考えている。糖分析を行った結果からも仮道管液にはグルコースやフルクトース、そしてわずかながらスクロースが含まれていることが確認された。師管液にはこれら3種類の糖が多く含まれ、とくにスクロースが多量に存在することが確認された。
2: おおむね順調に進展している
季節ごとの葉からRNAを抽出し発現する遺伝子を解析する実験についてはあと1サンプルを残すのみとなり、RNA抽出が完了次第、RNA-seq解析の委託に供する。また、枝からの師管液の転流物質の探索については幹からの師管液・仮道管液の採取が可能となり、同様の手法を用いて枝の師管液から採取にも目処が立った。よって実験計画はほぼ順調に推移していると判断する。
葉からのRNA抽出は順調に進み、あとは春の試料を得て抽出した後、RNAを抽出しRNA-seq解析を委託する予定である。幹の内樹皮から師管液・仮道管液を採取することに成功し、ペプチド・オリゴ糖分析が行えたので、採取量は少なくなると思われるが同様の手法を用いて枝からの師管液を採取することは可能であると予想されるので枝からの師管液採取し、分析を行う予定である。幹の師管液・仮道管液の分析は引き続き行い、とくに師管液に含まれるペプチド分析、仮道管液に含まれるオリゴ糖の分析を行う予定である。
本年度は試料調製のためRNA-seq解析に供する試料数が予定数に達しなかったためにRNA-seq解析委託費用が発生せず、残額を生じる結果となった。最終年度に向けて試料調製は順調に進んでいるので計画的に使用する予定である。
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