研究課題/領域番号 |
18K19232
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
小池 一彦 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (30265722)
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研究分担者 |
山下 洋 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 研究員 (00583147)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | シャコガイ / 褐虫藻 / ゾーザンテラ / サンゴ礁 |
研究実績の概要 |
熱帯の浅海域に生息する大型の二枚貝であるシャコガイは漁業資源として重要であり,わが国では養殖対象ともされている。シャコガイ類はサンゴ同様に共生藻(褐虫藻)を体内に共生させ,その光合成産物を得て生存している。 これまでの観察により,シャコガイ類は大量の糞を放出するが,その中にはほぼ消化されていない褐虫藻が多く含まれることがわかっている。今年度はこの糞中に含まれる褐虫藻の状態(細胞内形態,光合成活性)を詳しく調べ,さらにこれら褐虫藻が共生ソースとしてアクティブなのかを再感染実験により調べた。 実験室内でヒメジャコを飼育し,そこから放出される糞を回収し,顕微鏡型パルス変調蛍光光度計により光化学系IIの最大量子収率(Fv/Fm)を調べたところ,糞中の褐虫藻の活性はシャコガイ体内に共生しているポピュレーションと遜色ない光合成活性を保っていた。また,細胞内微細構造を観察したところ,特に消化を受けやすい葉緑体が健全な状態に保たれていた。これらから,糞中の褐虫藻はアクティブであると想定し,ヒレジャコ幼生に対して感染実験を行った。ヒレジャコ由来,ヒメジャコ由来両方の糞を与えたところ,何れもがヒレジャコ幼生に取り込まれ,活性の高い褐虫藻をより多く含むヒメジャコ由来の糞の方が共生率が高かった。糞を与えた場合の共生成立率は,これまで養殖現場で用いられてきた手法(親貝のホモジネートを与える)よりも高く,現場応用できる可能性も示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
シャコガイ糞中に含まれる褐虫藻が,形態的には健全であることは知られていたが,それが光合成活性を持ち,さらに別シャコガイに感染可能であることは今回の実験ではじめて明らかになった。7月からの研究開始により1年に満たずこれら成果を出すことができたので,想定以上に進展していると判断される。既に成果を2回の学会発表により公表し,論文としてもとりまとめ,国際誌に投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
シャコガイ糞中の褐虫藻が共生ソースとしてアクティブであることが判明したので,今後は同糞中の褐虫藻が「サンゴ」に取り込まれ,共生できるかを調べていく。このため,2019年の5月のサンゴ産卵時期に石垣島滞在を予定している。もしサンゴにも共生するとなれば,その成果は非常に大きな意味を持つ;サンゴの多くの種は幼生時に外部から褐虫藻を取り込まなければならないが,これまでにそのようなソースがサンゴ礁海域に豊富に存在するとの報告はない。もしシャコガイの糞に由来するとなれば,サンゴ礁全体の健全性はシャコガイの存在によっても支えられていることとなり,多種多様な生物が支え合うサンゴ礁生態系の素晴らしさ・脆弱性を再認識することとなるだろう。また,サンゴ中心に捉えられてきたサンゴ礁保全のあり方にも一石を投じることにもなるだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験がスムーズに遂行され,4回を予定していた石垣島訪問が2回で済んだこと,さらに,当初想定していなかった10月にヒレジャコが産卵する機会に恵まれ,実験に十分な量のヒレジャコ幼生が入手できたこと等,実験につきもののトライ&エラーが生じなかったことなどがあげられる。また,サンゴ礁学会が沖縄で開催され,石垣島での実験に合わせて学会に参加したため,その分の旅費も大きくセーブできた。翌年度分として請求した助成金と合わせ,5月中および9月にサンゴへの感染実験を集中的に行う予定である。また,室内飼育用の設備を整え,ラボ内で感染実験を行えるように整備する予定である。
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