研究課題/領域番号 |
18K19233
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北岡 卓也 九州大学, 農学研究院, 教授 (90304766)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
|
キーワード | セルロース / キチン / キトサン / ナノファイバー / 結晶界面 / 酸塩基反応 / 不均一系触媒 / 立体化学 |
研究実績の概要 |
樹木由来セルロースナノファイバー(林産物)とキチン由来マリンナノファイバー(海産物)のナノ構造界面を、不均一系固体触媒の反応場とするマテリアルデザインに挑戦し、本年度は以下の研究成果を得た。 【セルロースナノファイバーの界面酸化による固体酸の設計】 触媒活性のない物理解繊セルロースナノファイバーに、TEMPO酸化法で界面特異的に高密度のカルボン酸を導入することで、均一系酸触媒を凌駕するアセタールの高効率加水分解を達成した。詳細な速度論的解析により、本反応は基質の界面吸着による濃縮効果が反応加速の要因であることを明らかにした。 【界面酸化ナノセルロースへの塩基固定】 TEMPO酸化ナノセルロースに複素環式ジアミンのピペラジンを部分導入することで、塩形成による触媒の失活を誘発することなく、固体酸によるアセタールの加水分解と固体塩基によるKnoevenagel縮合の連続反応に成功した。 【界面酸化ナノセルロースと表面脱アセチル化キチンナノファイバーの組み合わせ】 互いにナノファイバーの固体酸と固体塩基を混合することで、ポリイオンコンプレックスの形成による触媒失活を起こすことなく、同様の連続反応に成功した。 【キトサンナノファイバーによるエステル交換抑制効果】 エステルの活性メチレンを用いるKnoevenagel縮合では、アルコールを反応溶媒に用いると容易にエステル交換反応が起こる。しかしながら、キトサンナノファイバーを固体塩基とする同反応系では、加溶媒分解によるエステル交換反応が全く起こらない新現象を発見した。 生物の作る構造そのものが機能の要となる有機分子触媒反応の開拓に向け、固体酸・固体塩基触媒の観点で探索を行い、興味深い現象をいくつか見出した。今後、その学理を追究して新学術に昇華し、糖鎖ナノ構造機能学「Glyconanoarchitectonics」の樹立に挑む。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
林産物および海産物由来の天然多糖ナノファイバーの結晶界面を、表面化学修飾により固体酸触媒・固体塩基触媒にマテリアルデザインする本研究の独自コンセプトの効果が明確に示され、同一の反応系内に酸と塩基が混在しても、それぞれ別々に機能するワンポット多段階反応の実例を見出した点は特筆に値する。また、当初の想定を超える成果として、キトサンナノファイバーを固体塩基触媒として用いた場合、Knoevenagel縮合体に対する加溶媒分解によるエステル交換反応が完全に抑制される新現象を発見した。この効果は極めて顕著であり、定量的に主生成物のみが得られることから、学術的なユニークさに加えて、化学・創薬産業的にも有用性が高いと考えられる。以上の結果は、既存の有機触媒反応研究に大きなインパクトを与える成果であり、詳細な機構解明とさらなる展開が大いに期待されることから、当初の計画以上に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
ナノセルロース・ナノキチン界面の構造制御、位置特異的酸化・脱アセチル化による触媒設計、有機合成の反応場としての機能創発と評価、触媒反応機構の解明等を進める。具体的には、キトサンナノファイバーの原料として、現在のαキチンではなくβキチンを用いることで、セルロースと同様に平行鎖結晶のナノ構造界面を反応場とすることが可能となり、それを手掛かりに構造と機能の相関関係を精査する。また、(1)多糖ナノファイバーのサイズ・結晶構造・結晶化度・塩基点密度と反応性の相関解析、(2)Knoevenagel縮合の他にDarzens縮合・不斉Henry反応・不斉Michael付加反応等への適用、(3)ナノファイバー軸に沿って「1 nm毎に存在する塩基点の規則性」と反応挙動・立体制御について、詳細に検討する。本研究のブレイクスルーポイントは既に制したので、今後は機構解明研究と応用展開を同時並行的に推進することで、挑戦的研究(萌芽)にふさわしい大きな成果を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度実施予定であった実験は全て行ったが、分析装置類を他の外部資金で賄ったため、本予算では消耗品類の使用に留まり、予算残が生じた。次年度は、多糖ナノファイバーを有機分子触媒とするキラル化合物の合成を計画しており、この分析には既設の超臨界流体クロマトグラフ用のキラルカラム(1本50万円以上)が複数本必要であることから、これに本年度の残予算を充てる。また、2年目は、より積極的に国内外での学会発表を予定しており、残予算の一部は旅費支出にも充当する。研究は極めて順調に進行しており、適切な研究費の使用を通じて、挑戦的研究(萌芽)にふさわしい大きな成果を目指す。
|