樹木由来セルロースナノファイバー(CNF:林産物)や甲殻類由来キチンナノファイバー(ChNF:海産物)の固体界面を触媒反応場とする様々なグリーン合成化学に挑戦し、(1)TEMPO酸化CNFによるアセタールの高効率加水分解、(2)TEMPO-CNFとプロリンの組み合わせによる不斉アルドール反応、(3)表面脱アセチル化ChNFによる高選択的Knoevenagel縮合、(4)CNF安定化ピッカリングエマルションを反応場とするリグニン合成において、萌芽的かつ独創的な多くの研究成果を得た。最終年度はこれらの研究の集大成として、マイクロプラスチックによる海洋汚染問題の解決に向けた「木質模倣微粒子」の合成に挑戦した。 【人工リグニンの微粒子合成とCNFとの複合化】TEMPO-CNF水懸濁液を反応場とし、コニフェリルアルコールをリグニン前駆体とする西洋わさびペルオキシダーゼによる酵素重合を行うことで、人工リグニンをコアに、TEMPO-CNFをシェルに持つ真球微粒子の合成に成功した。 【木質真球微粒子の形状・特性】木質微粒子の性状はTEMPO-CNF添加量に依存し、最適条件では粒径800 nmで真球度0.95を達成した。真球度は化粧品用途で特に重要な指標であり、配合性や伸び性への効果が期待できる。微粒子の表面ゼータ電位は約-40 mVで、非常に強い負電荷を示した。水系での分散安定性や長期保存性に寄与すると考えられる。 【物質担持能】化粧品用微粒子には薬用効果が期待されることから、モデル物質としてメチレンブルーとアルギニンの担持挙動を検討した。それぞれ95%および38%の保持力を示し、高い物質担持能が示唆された。 CNFとリグニンは天然の木質成分であり、深海微生物により生分解されることから、これらをナノ複合化した木質模倣微粒子の利用は、マイクロプラスチックによる海洋汚染問題の解決に資すると期待される。
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