研究課題
主に室内実験により研究を進めた。現有の細胞内に共生藻をもつヤコウチュウ(ミドリヤコウチュウ)培養および共生藻の培養からクローン株を作成し、増殖の給餌条件および温度依存性を検討した。前者については、給餌により増殖速度は無給餌時よりも増殖速度が上がること、しかし緩慢な動揺が必要で静置条件下では給餌による効果は無いことを認めた。後者については、共生藻、ミドリヤコウチュウおよび真鶴近海より採取してクローン化したヤコウチュウ(アカヤコウチュウ)を用いた。水温20~30℃の範囲でミドリヤコウチュウは増殖したが、25℃以下で増殖速度は低下しこの温度範囲では共生藻の細胞数が顕著に減少した。一方、共生藻は25℃以下では全く増殖せず、27~30℃が好適水温であった。また、アカヤコウチュウは25℃以下で増殖し、それ以上では増殖しなかった。以上から、共生藻の温度依存性がミドリヤコウチュウの生息要因となっていること、ミドリヤコウチュウとアカヤコウチュウは異なる温度依存性を持つことが明らかになった。また、アカヤコウチュウは餌密度を上げると25℃以上でも増殖する場合があり、増殖の温度依存性と餌料密度に何らかの関係が有る可能性が示唆された。共生藻がミドリヤコウチュウからアカヤコウチュウに水平伝播される可能性を明らかにするために、25℃以上で増殖するアカヤコウチュウを真鶴沿岸域で探索し26℃以上で増殖可能なクローンを得た。上記の温度依存性の検討結果は共生藻がヤコウチュウに水平伝搬される可能性に否定的だが、このクローン株の確立により、その可能性が出てきた。この他に、ヤコウチュウの餌料培養株確立を五島列島沿岸域で行った。また、現場からのミドリヤコウチュウの単離を南シナ海マレー半島東岸で試みたがほとんど出現せず単離に至らなかった。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、1)ヤコウチュウと共生藻の共生関係からの発生機構の解明、および2)ミドリヤコウチュウ増殖の温度依存性の解明を通して、3)両生態型の融合およびアカヤコウチュウがミドリヤコウチュウ化する可能性の検討を主な内容としているが、1)については、富栄養環境と赤潮発生の関係を窒素の取り込みから調べるものであり、共生藻の窒素源としてアンモニア・硝酸塩・アミノ酸・尿素の利用特性の解析が現在進行中である。2)についてはすでに終了し、3)についてはアカヤコウチュウのミドリ化のためのクローン株を確立することが出来ており、計画全体の進捗はほぼ順調と判断する。今年度は、ベトナムおよびマレーシア沿岸でミドリヤコウチュウの出現が確認できず、現場からの株を単離できなかったが、この点は対象海域をフィリピンも含めて拡大して、現地協力者からの情報提供に迅速に対応して現場に向かうなどにより対処する。
ヤコウチュウ細胞内に存在する高濃度のアンモニアの由来(細胞外からの取り込みか、餌料の消化産物か)、共生藻の窒素源としてアンモニア・硝酸塩・アミノ酸・尿素の利用特性を15Nトレーサーを用いて解析し富栄養化現象と窒素利用の関係を明らかにする実験的解析を行う。また、フィリピンおよびマレーシアからの株の単離を進める。
備品として計上していたマニピュレーターの納入が2019年3月1日に納入されたため業者への支払いが4月以降になり管理上2019年度予算で執行することになったこと、および南シナ海沿岸でのミドリヤコウチュウの発生が2018年夏季に確認できず、当初予定していた現場観測を2019年夏季に実施することになったため。
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