研究実績の概要 |
活性成分を含む事が想定される原基ならびに栄養菌糸アセトン粗抽出物についてシリカゲルカラムによる多段階の分画・精製を実施し,それぞれ8、16の画分を得た。NMRによる構造解析により,これらは真菌型グルコシルセラミド,トリグリセリド類,エルゴステロール,遊離脂肪酸類と関連脂質,ステロイド系に該当する事が判明し,ジグリセリドと推定される物質が原基特異的に確認された。前年度の子実体分析結果も合せ,ヒラタケ菌体脂溶性成分の培養ステージ別の発現量が一部明らかとなった。各培養ステージ菌体からの抽出画分のPD法による活性試験の結果(10μg試料をdisk添加),トリグリセリド(GC-MSにより構造の詳細を検討中)・真菌型グルコシルセラミド等にごく微量で子実体(原基)を誘導する可能性が示唆された。他方, ヒラタケの3つの培養ステージ(菌糸、原基、子実体)から得られたcDNAをテンプレートとして,150種類のランダムプライマーによるRAPD分析を行った。その結果、原基および子実体のステージで特異的に増幅されたcDNA断片を3つ得た(T5, W7, A9)。T5クローンとW7クローンは原基特異的で,それぞれスエヒロタケのハイドロホビン遺伝子およびシイタケのキチン分解酵素遺伝子と相同性を示した。一方,A9クローンは子実体特異的で,Aspergillus nidulansのβ-1,3グルカン分解酵素の遺伝子と相同性を示した。ハイドロホビンは菌類にみられる細胞表層タンパク質で,細胞の表層に撥水性を与える。子実体形成過程においては,特有の細胞壁関連のタンパク質が関わっていると考えられるため,今回得られたT5クローンが原基のステージで確認できたことは興味深い。ハイドロホビン,キチン,グルカンの3つのキー物質と上記抽出物の関連付けは今後の課題として残されたが,子実体形成機構を考える上で有用な知見を得た。
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