研究課題
近年ブリ類養殖では、Microsporidium seriolaeを原因とする微胞子虫症の被害が甚大である。本症のワクチン開発に有用な免疫系を解明するため、自然感染試験、履歴魚血清の移入試験及びワクチン試験を実施し、感染に対するブリ類の免疫システムについて、タンパク質・遺伝子レベルでの包括的な解析を行った。自然感染試験では、主要な症状になるシスト形成時期に着目し、免疫関連遺伝子や血漿タンパク質の発現変動、抗体産生や病理組織像を観察した。感染魚の脾臓では、免疫応答の制御に関わるTIGIT遺伝子等の発現量の増加が認められ、血漿中ではT細胞の機能抑制に関与するVTCN1の増加が観察された。抗体産生に関しては、ELISA法による測定値は極めて低く、病理組織観察ではシストに対する炎症が認められなかったことから、これらの応答はシスト形成時期の病態を反映している可能性が推察された。履歴魚血清の移入試験では、血清移入区でも病原体の感染及びシスト形成が観察されたことから、本症の感染防御における液性免疫の有効性は低いと推察された。ワクチン試験では、病原体破砕液の不活化液をワクチンとし、ワクチン接種区と未接種区の感染状況及び宿主応答を比較した。シスト形成期までの短期的な試験において、未接種区では全ての個体で病原体遺伝子が検出されたのに対し、ワクチン接種区では病原体遺伝子が検出されなかった個体が多く、これらの頭腎ではGIMAP8遺伝子等の発現上昇が認められた。但し、両区共に、免疫応答の抑制に関わる遺伝子の発現変動が認められたことに加え、重篤な個体が現れるまで長期間実施したワクチン試験では、両区の感染状況に差は認められなかった。これらの成果から本症のワクチン開発には、病態進行の遅延への関与が予想されるGIMAP8の機能解明や免疫応答の抑制因子の機能阻害に関する研究の進展が重要であると考えられた。
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