研究課題/領域番号 |
18K19244
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
廣田 純一 岩手大学, 農学部, 教授 (00173287)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 拡大コミュニティ / 人口減少 / 過疎化 / 集落 / 関心人口 / 関係人口 / 交流人口 / 集落の持続性 |
研究実績の概要 |
本研究は,東日本大震災後の地域コミュニティの再建に関する実践と研究を通じて申請者が着想した「拡大コミュニティ」について,その事例の収集・分析と理論構築を目的とするものである。「拡大コミュニティ」とは,当該地域に居住する住民に加えて,そこに関わりや関心を有する非居住住民を構成員とする新たな地域コミュニティ概念である。 本研究では,農山村地域の持続的な発展に資する「拡大コミュニティ」の基本的な構造と機能,ならびに持続可能性を明らかにするために,以下に示す「拡大コミュニティ」の類型ごとに詳細な事例調査を行うものとした。 (1) 転出子世帯による親世帯・集落活動支援型:岩手県久慈市山根地区。(2) 地元出身者による同郷団体・同窓会型:沖縄県竹富町竹富島,岩手県西和賀町各地区。(3) 地域間交流型:岩手県大船渡市崎浜地区,釜石市根浜地区(岡山県玉野市)。(4) ふるさと会員型:高知県馬路村,徳島県神山町,岩手県大槌町。(5) 居住者・非居住者による合同地域組織型:長岡市山古志木籠地区。(6) 地域運営組織によるボランティア受入型:島根県雲南市の各地区,新潟県十日町市池谷・入谷地区。 本年度は,以上の類型のうち,(1),(3),(5)について基礎情報の収集ならびに現地調査を行い,また(2),(6) について基礎情報の収集を行った。 その結果,「拡大コミュニティ」の基本構造と機能に関しては,1)親コミュニティ主導と外部者主導の場合に分けられること,2)親コミュニティと外部者を結ぶ事務局の役割が大きいこと,3)外部者の役割として,親コミュニティの成員と変わらない役割をこなす場合と,その一部をこなす場合,およびまったく違った役割が与えられるケースがあることがわかった。また拡大コミュニティの持続性に関しては,事務局の運営力と持続性,ならびに成員の帰属意識に大きく左右されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,当初の研究計画で想定した「拡大コミュニティ」の類型ごとの基礎情報収集と現地調査を概ね予定通り進められたことである。6つの類型のうち,5つについて基礎情報の収集に着手することができており,また3つについては現地調査も行えた。 次に,これらの調査により「拡大コミュニティ」の基本構造と機能に関する知見を蓄積できたことである。【研究実績の概要】で述べたように,本年度調査によって,1)親コミュニティ主導と外部者主導の場合に分けられること,2)親コミュニティと外部者を結ぶ事務局の役割が大きいこと,3)外部者の役割として,親コミュニティの成員と変わらない役割をこなす場合と,その一部をこなす場合,および全く違った役割が与えられるケースがあることがわかってきたが,これらによって各類型の拡大コミュニティの特徴がより明確になるとともに,当初想定した類型を見直す必要性も見えてきた。これは研究の深化を示すものであり,手応えを感じている。 さらに,本研究が最も重視する拡大コミュニティの持続性についても,本年度調査から大きな示唆を得た。事務局の運営力と持続性については,当初から仮説として重視していたが,拡大コミュニティの成員の帰属意識の重要性については,そこまで注目はしてこなかった。そこに気づかされたことも本年度調査の成果である。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には現在(当初)の研究計画通りに進める予定である。すなわち当初想定した6つの類型ごとに研究対象事例を選定し,基礎情報の収集と現地調査を行う。ただし,研究対象事例については,よりふさわしい事例が見つかれば,随時追加もしくは変更を行っていく(これは当初からその予定であった)。 具体的には,(1) 転出子世帯による親世帯・集落活動支援型について,現在の岩手県久慈市山根地区に加えて,より実績のある地区を加える予定である。また,(2) 地元出身者による同郷団体・同窓会型で,岩手県西和賀町各地区を想定していたが,本年度に基礎情報を集めた結果,まだ取り組みが始まったばかりであることが判明したため,より実績を積んだ地区を加える予定である。さらに,(4) ふるさと会員型についても,岩手県大槌町の実績がまだ初期段階なので,既に実績を上げている地区に差し替える予定である。他方,(5) 居住者・非居住者による合同地域組織型である長岡市山古志木籠地区は,本年度の調査によって極めて注目すべき拡大コミュニティであることが判明したため,2年目以降も継続的な調査を行うものとする。最後に,(6) 地域運営組織によるボランティア受入型であるが,本年度は現地調査に入れなかったため,島根県雲南市のいくつかの地区について現地調査を行う予定である。 なお,理論的な検討については,拡大コミュニティの構造と機能に加えて,その持続性について考察を進める予定である。拡大コミュニティの運営体制,とくに事務局の重要性が示唆されているので,そこに注目して現地調査も進めるものとする。
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