研究課題/領域番号 |
18K19254
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
稲波 修 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (10193559)
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研究分担者 |
平田 拓 北海道大学, 情報科学研究院, 教授 (60250958)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | がん治療抵抗性因子 / ワールブルグ効果 / 電子伝達系 / グリコリシス / グルタミノリシス |
研究実績の概要 |
本研究の目標はがんの微小環境の代謝に着目した空間的・時間的評価方法をインビトロとインビボで確立することが中心的な目標である。 既に腫瘍細胞やがん組織の高エネルギーリン酸化合物はHPLC法による測定法を確立していたが、本年度は新たに電気化学検出計/HPLC法によるグルタチオンならびにシステインの測定を可能にした。3Hラベルしたグルタミンとデオキシグルコースを用いて、培養細胞でのグルタミン代謝ならびに糖代謝評価法を確立するとともに放射線に対してこれらの代謝が増強し、ATP産生に結びついていることを明らかにした。また、アイソトープラベルのイミダゾール化合物(14Cドラニダゾール)を用いて、がん組織の低酸素領域のオートラジオグラフィーによる評価系を確立し、糖代謝刺激物質としてジクロロ酢酸(DCA)による応答を調べた。また、新たにフラックスアナライザーが共通機器として学部に導入され、培養細胞でのOCRとECARの測定が容易になり、放射線応答を検討したところ、OCRならびにECARとも5Gy照射で24時間後に上昇し、放射線照射後のエネルギー上昇が起きることが明らかとなった。。 鍵となる代謝関連物質のインビトロでの測定法についてはほぼ確立した。また、インビボ担癌マウスでのpHのESRイメージングについては既に確立している。最終年度は、アイソトープセンターの質量イメージングを用いて、インビトロで観察されている代謝物について担癌マウスで評価を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの以下の到達点を評価するとほぼ順調に進捗していると評価できる。 ①これまで、培養細胞系の代謝評価について過酸化脂質マーカーのイソプロスタン、ATP, ADP, AMP, NADH、NAD+, NADPH, NADP+ならびにGSHのHPLCによる計測系は予定通り確立した。 ②放射性同位元素を用いた代謝評価では培養系ではグルタミン代謝、糖代謝について確立し、放射線照射で増大することを明らかにしている。また、担癌マウスでは低酸素領域のイメージングに成功している。 ③ESRイメージングでは国際共同研究として、分担者の平田を中心にpHイメージング法を既に確立し、その分解能を向上させる研究を開始している。 最終年度は質量イメージングによるNADH、GSHならびにATP等のイメージング法を確立することを中心的に進め先端的がんイメージング法を確立する。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には予定通り進んでいるが、実験動物購入費と質量分析イメージング装置の使用量が高額なため、平行的に研究を進めるのではなく、最初に培養細胞系での基礎的な検討を行ってから、最終年度の3年目に短期間に集約して進める事としている。これまで、インビトロ細胞培養系での基本的な代謝研究は完了している。そこで、本年はイメージングに関して以下に示すように重点的に研究を推進する。 ① がんのpH分布のESRイメージング:細胞外pHについては培養系では糖代謝に依存したマーカーである事がフラックスアナライザーを用いて、明らかになっているが、担癌マウスのようなインビボでの意義は明確になっていない。細胞外pHには糖代謝に由来する乳酸による制御系と癌の代謝活性化で細胞内低pH化による傷害から防護するために細胞内炭酸脱水素酵素(CAIX)活性化やモノカルボン酸トランスポーター光発現によって制御される2つのシステムがあると考えられている。既に本研究ではpHのESRイメージングは画像法としては既に確立しているので、この系を用いて組織における細胞外pH 組織の生物的意義をあきらかにする。用いるのは解糖系阻害剤2DG、CAI、CAII、CAIV阻害剤 メタゾアミド、CA V 阻害剤アセタゾアミドとCAIXならびにCAX阻害剤U-104等を用いてその細胞外pHへの影響を評価する。 ② がんの代謝産物の質量分析イメージング:今までインビトロで評価してきた代謝産物のうち糖代謝やエネルギー代謝に関連するするNADH、GSHならびにATP等の質量分析イメージング法を担癌マウスで確立する。さらに放射線や制がん剤の応答を時空間的に明らかにし、インビトロでの評価結果と合わせて検証する。 以上の担癌マウスを用いてがんの解糖系と電子伝達系のESRイメージングと質量分析イメージングを組み合わせた新規イメージング技術を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の使用計画と今年の推進方策の項で述べたように実験動物購入費と質量分析イメージング装置の使用量が高額なため、平行的に進めるのではなく、初年度と2年目に培養細胞系での基礎的な検討を行ってから、最終年度の3年目に短期間に集約して進める予定である。従って、今まで既存の機材や試薬の使用量も抑えながら、進めてきた。従って次年度使用額が生じた理由は最終年度に本格的に実験動物を用いた質量分析イメージング装置を使用するために繰り越したためである。従って、残額を用いることで適正に実験を進めることが可能となる。
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