研究実績の概要 |
本年度は最終年度となり、当初の予定のがんの微小環境と治療応答について質量分析計とESR法によるインビトロならびにインビボでのレドックスに着目した評価法の確立を目指した。まず、インビトロでの実験としてやり残している課題として、今までの測定から漏れていた細胞内の重要な酸化還元物資として、システイン(Cys)、グルタチオン(GSH)、ならびにアスコルビン酸(Asc)についてより精度の良い正確な検出系を確立する必要がある。そこで、HPLC-電気化学検出器(ECD)を用いてA549の細胞抽出液について検討した。逆相HPLCを用いて、0.8VでECDの検出を行ったところ、一回の測定でAsc,CysならびにGSHを定量する系を確立した。酸化型のAsc、シスチン、GSSGについても試料を還元剤トリメチルフォスフィン(TCEP)で還元してから同じ測定系により分析することによる評価系も確立した。細胞内グルタミンとシステインは細胞内GSHのレベルに関与する事が知られていることから、グルタミナーゼ阻害剤CB-839処理で細胞内グルタチオンの濃度測定を行ったが、Cys、GSHならびにAsc全てについて大きな変化は観察されず、グルタミノリシス阻害での放射線増感は細胞内GSHの減少によるものではないことが明らかとなった。また、細胞内GSHのレベルについて組織レベルで質量イメージングの試みを行う予定であったが、このコロナ禍のために、準備、マシンタイムならびに支援の大学院生の時間確保が十分でなく、現在も進めている最中である。一方、インビボでのESR測定では、15N-PDT(4-oxo-2,2,6,6-tetramethylpiperidine;1-15N-1-oxyl)を用いた750MHzの自家製ESR装置の開発に成功し、ファントムならびに膵臓がんMIAPaCaの移植腫瘍モデルでの高速イメージング法を確立した。
|