我が国の畜産業に多大な経済的被害を与えている放牧病に、牛小型ピロプラズマ病がある。本疾病は、赤血球内に寄生する牛小型ピロプラズマ原虫がマダニの吸血を介して牛に伝播され、しばしば牧野で集団発生する。感染を受けた牛は消耗性の発熱と悪性貧血を呈し、確実に増体率の低下を招く。本疾病は日本全土に発生しているが、現在治療薬も予防用ワクチンもないことから畜産業を大いに悩ませている。一方、我々は「野生のシカが保有するシカ小型ピロプラズマが、牧野内の牛小型ピロプラズマ病の発生を劇的に干渉している」可能性を独自の研究シーズとして見いだしてきた。そこで、日本で起こっているこの可能性を科学的に取りまとめ、“シカ小型ピロプラズマを活用した牛小型ピロプラズマ病に対する新たな制御法”を考案することを目的とした。
最終年度では、1)シカ小型ピロプラズマによる感染を特異的に遺伝子検出できる新たな診断法(LAMP法)の開発に成功した。また、2)野生シカには新たなシカ大型ピロプラズマが2種感染している実態も明らかにした。これらの成果により、我が国に分布するシカピロプラズマの複雑な実態が明らかとなり、同じ反芻動物である牛への影響を調査する重要性がますます高まった。
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