研究課題
乳牛の受胎・分娩は乳生産の基本的な生物現象であり、100%子宮内への凍結精液による人工授精(AI)でおこなわれる。本研究は凍結精液の子宮内免疫応答を模倣した新規バイオアッセイを活用し、受胎率向上に向けて炎症を緩和する低刺激性の人工授精溶液の開発基盤を示すことを目的として、1)子宮上皮細胞の精子認識機構の解明とその抑制、2)精液希釈液の再評価とX/Y分離精子への応用、の段階的な実証を目指した。しかし、上記2)については、X/Y精子分離法の安定性が得られなかったため、検証は行わなかった。研究実績の要点を列記すると、1) 乳牛の繁殖で大きな問題である何の兆候も伴わない正常に見える潜在性子宮内膜炎の不受胎の主要因の1つである病原体内毒素LPSとペプチドグリカン (PGN)について、それらの受容体が精子を認識するセンサーであるToll-like receptor 2/4 (TLR2/4)であることから、その相互作用を調べた。その結果、これら内毒素が母ウシ子宮内では検知できないほどの超低濃度ですでに、TLR2/4経路を脱感作して精子認識を遮断することがわかった。2) 新鮮な子宮組織片を用いた新しいex-vivo系で精子との相互作用をより生体に近い生理的条件下で検証した。子宮では精子は子宮腺に侵入してTLR2を刺激して炎症性サイトカインTNFA発現を誘導することがわかった。この現象が人工授精直後の子宮内炎症反応で最初に起こる重要な現象の1つであることが伺われた。特に、TLR2アンタゴニストが精子が誘導する子宮の炎症反応を完全に抑制したことから、このアプローチがウシ生体レベルでも可能であると考えられた。3) 生体モデルを用いて、ウシ凍結精液の子宮内への人工授精直後の精子と好中球の出現状況を活用した炎症反応ダイナミクスを確定することが可能となった。今後、生体レベルへの展開基盤が確立できた。
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