研究課題/領域番号 |
18K19262
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松脇 貴志 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (20447361)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | mPGES-1 / 低体温 / LPS |
研究実績の概要 |
PGE2は脳内で熱源物質として働くことで知られている。PGE2はPG類に共通の前駆物質であるPGH2から、PGE2合成酵素によって合成される。mPGES-1は誘導型のPGE2合成酵素であり、傷害や感染などの刺激に応じて発現量が増加する。我々は過去に、mPGES-1遺伝子欠損マウスが、野生型で発熱を呈するレベルの感染刺激時に発熱を呈さないだけでなく強度の体温低下が起こることを見いだした。この結果は発熱中枢だけでは説明できない現象であり、感染時には発熱中枢と同時に体温低下を引き起こす機構が活性化されることを示唆している。平成30年度の本課題研究により、我々は発情前期に血中濃度が増加するエストロゲンがこの低体温誘起機構の反応性を高めることで感染性の低体温が引き起こされることを明らかにした。 この結果を受けて令和元年度の研究では、1)性周期変動の観察がより容易なラットでのmPGES-1遺伝子欠損動物の作出と、2)低体温時に活性化する脳内領域の同定を目的とした。それぞれの実験について結果を報告する。 1)CRISPR/Cas法による遺伝子編集用の核酸溶液を卵管に直接注入して電気穿孔法を施すGONAD法により、mPGES-1遺伝子のエクソン2に変異をもつ個体を得、系統化に成功した。この遺伝子欠損ラットは野生型ラットと同様に4日間の性周期回帰を示している。今後このラットに感染刺激としてLPSを投与して体温変動を観察する予定である。 2)LPS投与5時間後の脳を薄切し、神経興奮マーカーであるc-fosに対する免疫染色を行った結果、低体温を示すKOでは視床下部室傍核でのc-fos陽性細胞数の増加が認められた。また、視床下部のみならず扁桃体の中心核や外側基底核においても、低体温を示すKOではc-fos陽性細胞数の増加がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新しい遺伝子改変動物作成技術であるGONAD法を用いることで、mPGES-1 KOラットの系統化に約半年で成功した。 マウスを用いた脳内の低体温責任部位同定についても順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
mPGES-1 KOラットの繁殖は順調であり、令和2年度はこのラットについて1)雄、2)各性周期の雌、3)卵巣摘出、エストロゲン補充雌それぞれにおける感染刺激に対する体温変動を観察する。 さらに、マウスを用いた研究では、令和元年度に同定された候補領域から、低体温責任部位の絞り込みを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
対象動物の系統を増やしたことで令和2年度は体温測定を必要とする回数が増えることが予想される。よって、令和元年の予算をできる限り翌年度に繰り越し、まとめて体温測定用の発信機購入に充てることとした。
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