研究課題/領域番号 |
18K19263
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
杉浦 幸二 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 准教授 (20595623)
|
研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 細胞老化 |
研究実績の概要 |
動物のメスの繁殖能力は、個体の加齢に伴って顕著に低下してしまう。この繁殖能力の低下を防ぐことは、家畜生産や不妊治療分野における重要課題である。これまでは、卵巣や子宮の機能異常や卵子の質低下が、その原因であると説明されてきた。しかし、実際は卵巣や子宮機能に顕著な異常の見られない時期の動物においても、繁殖能力の低下は始まっているが、そのメカニズムは不明である。申請者は、この時期におけるメス繁殖能力低下の原因が、卵管におけるセネッセンス細胞の蓄積である可能性を見出した。そこで本申請では、これまでメスの生殖システムの老化研究において着目されることの少なかった卵管に焦点を当 て、卵管におけるセネッセンス細胞の蓄積が個体の繁殖能力にあたえる影響の解明を目的とする。本年度は以下の項目について研究を行った。 ①メス生殖能力低下へのセネッセンス細胞の関与:卵管膨大部全体での遺伝子発現に対する加齢の影響、若齢・老齢個体における卵管の構造の切片観察などを起い、若齢・老齢間での卵管環境の違いについて解析した。その結果、老齢個体の卵管膨大部には、若齢には存在しない比較的大きな細胞が蓄積していること、一部の遺伝子発現に差が見られることなどが明らかとなった。 ②卵管器官培養における体外受精系の確立:老齢環境が受精を抑制するメカニズムをより詳細に解明するために、卵管の器官培養系を用いた新規の体外受精系の確立を試みた。現在までに、若齢個体の卵管器官培養系において、低率ながら受精が起こる系の確立にまで成功している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していたRNAシークエンスによる網羅的な遺伝子発現解析による卵管環境の解析には至らなかったが、一部の遺伝子に対する加齢の影響や、卵管構造の変化などについて新たな知見を得ることができた。また、新たに卵管の器官培養系の確立を試みており、現在までに若齢個体の卵管器官培養において低率ながらも受精が起こる系の確立に成功している。今後、受精率の向上を図る必要があるが、この系が確立できれば、加齢に伴った生体内受精率の低下の原因を直接的に観察・解析できるようになるため、飛躍的に研究が加速するものと考えられる。以上を総合的に判断し、おおむね順調に進展していると考ている。
|
今後の研究の推進方策 |
新たに確立途中である卵管器官培養系が比較的順調に進んでいることから、この系の確立を中心に研究を進めていく。培養系の確立後、若齢・老齢個体の卵管について、培養下でより直接的に受精率低下の原因について解析していく。
|