動物のメスの繁殖能力は、個体の加齢に伴って顕著に低下してしまう。この繁殖能力の低下を防ぐことは、家畜生産や不妊治療分野における重要課題である。これまでは、卵巣や子宮の機能異常や卵子の質低下が、その原因であると説明されてきた。しかし、実際は卵巣や子宮機能に顕著な異常の見られない時期の動物においても、繁殖能力の低下は始まっているが、そのメカニズムは不明である。申請者は、この時期におけるメス繁殖能力低下の原因が、卵管におけるセネッセンス細胞の蓄積である可能性を見出した。そこで本申請では、これまでメスの生殖システムの老化研究において着目されることの少なかった卵管に焦点を当て、動物のメス個体の加齢初期に観察される繁殖能力低下メカニズムとして、個体の加齢に伴った卵管へのセネッセンス細胞の蓄積、さらに卵管の機能異常の可能性を検討することを目的とした。本年度の研究実績は以下の通りである。 ①卵管器官培養における体外受精系の確立:老齢環境が受精を抑制するメカニズムをより詳細に解明するために、卵管の器官培養系を用いた新規の体外受精系の確立した。この器官培養系で受精能獲得済み精子を用いて受精率を調べたところ、若齢、老齢間で有意な差は見られなかった。すなわち、老齢卵管では精子の受精能獲得、または精子輸送に影響があると考えらえた。 ②卵管の精子輸送能の可視化法の確立:既報をもとに、卵管の蠕動運動の可視化実験方法を当研究室で確立した。本実験方法を用いて、現在、若齢、老齢卵管での蠕動運動、卵管液の流れを比較している。
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