研究課題
家畜(ウシ)の繁殖低下の要因の約4割をしめる「視床下部性の生殖機能不全」は、発達期の脳への外的環境因子の影響が生涯にわたり繁殖中枢の機能を低下させることに起因すると考えられる。本研究は、哺乳類において発達期の脳への性ステロイドホルモン(エストロゲン)の感作が、生涯にわたり生殖機能を抑制する分子メカニズムの解明を通じて、エピジェネティック機構など既知のメカニズムでは説明出来ない「キスペプチン遺伝子(Kiss1)特異的かつ不可逆な発現抑制を担うプログラミング機構」を解明することを目的とする。本研究では、出生直後(脳の発達期)の雌雄ラットに、エストロゲンを慢性的に感作させた時に、どのようなメカニズムによって、Kiss1発現が特異的かつ不可逆に抑制されるかについて、その新規な分子機構を明らかにしようとしている。具体的には、キスペプチンニューロンを常時可視化できるトランスジェニック(Tg)ラットを用いて、Kiss1遺伝子の発現が抑制された動物でも、キスペプチンニューロンを単離したり、脳切片上で可視化することを特色として実験を進めた。このTgラットを用いれば、発達期の脳へのエストロゲンの感作が、どのような転写因子やヒストン修飾蛋白を介して、Kiss1発現が特異的かつ不可逆に抑制するかを明らかにすることができる。今年度は、キスペプチンニューロン可視化Tgラットの作製にとりくみ、コンストラクトの準備等が整ったので、来年度以降に本Tgラットの完成を目指している。本年度は、野生型ラットを用いて、キスペプチンニューロンに発現するヒストンタンパク修飾遺伝子、転写因子について、複数の候補遺伝子の探索を行い、複数の因子が、弓状核および前腹側室周囲核に局在するキスペプチンニューロンに共存することを発見した。
3: やや遅れている
本研究では、キスペプチンニューロンを常時可視化できるトランスジェニック(Tg)ラットの作出を計画しているが、その作製が当初の予定より遅れている。具体的には、Kiss1-Cre TGラットが作製過程にあり、コンストラクトは作製済みであるものの、これを導入したラットの作製が完成していない。この作製に成功すれば、現有のCAGプロモータ下流にstop-codon floxed-Tomato遺伝子を導入したTgラットとの交配により目的の可視化ラットが得られると期待している。
キスペプチンニューロンを常時可視化できるTgラットを、Kiss1-Cre TGラットとCAGプロモータ下流にstop-codon floxed-Tomato遺伝子を導入したTgラットの交配により得られた場合は、このキスペプチン可視化遺伝子改変ラットの新生仔から視床下部を切り出し、in vitroで培養する。培養液へのエストロジェン添加、および無添加群を設け、得られた細胞を酵素処理により単離し、Tomatoの赤色蛍光を指標としてキスペプチンニューロンのみを回収する。得られた遺伝子についてRNA-seq解析し、エストロゲン添加により、発現が顕著に上昇、もしくは減少する遺伝子群をリスト化する。これら新生仔から得た遺伝子群を、性成熟後の正常雌ラットのキスペプチンニューロンから得た遺伝子群リスト(RNA-seqにより取得済み)と比較しつつ、ERαやエストロジェン応答領域(ERE)との結合領域を有するかを検索し優先順位を付けてリスト化し、これら遺伝子のKiss1遺伝子発現調節における役割をin vitroおよびin vivo実験により解明する予定である。
上述したように、キスペプチンニューロンを常時可視化できるTgラットの作製が予定より遅れており、この作製への投資が不十分であったために、次年度に使用額が生じたと分析している。上記のように、本年度において、鋭意キスペプチンニューロンを常時可視化できるTgラットの作製にあたるため、Tgラットの作製に必要な膨大なラットの購入費や維持費、遺伝子検索のための分子生物学実験に本研究費を充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (15件)
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