研究課題
幹細胞培養法の樹立は、基礎医学、再生医学の発展に寄与してきた。既に、ES細胞、生殖幹細胞、神経幹細胞など、様々な幹細胞が樹立され、幹細胞状態の理 解や再生医療への応用に貢献してきた。しかし、全ての細胞系譜の上位に位置する「全能性幹細胞」は、未だ樹立されていない。全能性状態では、前世代のエピ ジェネティックなゲノム情報が初期化されるとともに、個体発生の全プログラムが準備状態にある。このような性質は、他の細胞系譜には無い唯一無二のもので あり、その解析は新たな学術的分野の開拓に繋がると期待される。全能性状態を規定する分子機構の解明は、ES/iPS細胞の包括的な理解へも重要な視点を与える であろう。さらに、再生医学における様々な組織細胞の分化誘導においても、これまでのES/iPS細胞以上の能力を備える可能性も期待できる。そこで本研究で は、我々が独自に開発した長期1細胞追跡法と、我々がこれまで取得してきた網羅的遺伝子発現データをもとに、全能性幹細胞の樹立を目指す。本年度は、マウスES細胞の未分化性の揺らぎに伴う遺伝子発現変動を定量し、全能性状態の誘導活性を有す可能性のある遺伝子群を特定した。これらの遺伝子機能を解析するために、ゲノム編集によって遺伝子活性を簡便に低下させる実験条件を確立し、その実験条件のもとに、個々の候補遺伝子の機能解析を開始した。また、ヒトiPS細胞において、未分化性を亢進させる活性のある阻害剤を新たに見出した。今後、本阻害剤が未分化性のみならず全能性を亢進させる活性も有すかどうかを検証する必要があると考えている。これらの研究遂行のために、細胞培養用のCO2インキュベータを購入した。
3: やや遅れている
全能性を促進する候補遺伝子として、複数の遺伝子を新たに同定した。本研究の目的の達成のためには、それらの遺伝子の機能解析も必要と判断し、そのために新たな実験が必要となったため、想定以上の時間を要すことになった。本研究では、最終的には全能性を亢進させるための培養条件の樹立を目指している。そのための基礎的知見を得るためにも、全能性制御に関わる可能性のある候補遺伝子群について、解析を進める必要性があると考えている。
既に、全能性を促進する候補遺伝子の発現を抑制するための実験条件を確立しているので、今後は、この条件を用いて、全能性の制御に関与する候補遺伝子の発現レベルを抑制し、その影響を調べる。全能性が変動したかどうかは、全能性マーカー遺伝子のプロモーターの制御下にある蛍光蛋白の発現変動として定量する。全能性の亢進を認めた場合は、その状態を促進するための新規の培養条件の樹立を目指す。研究実績の概要で記載した阻害剤についても、適宜、全能性への影響を調べる。
全能性を制御する可能性のある新たな候補遺伝子群を同定したため、その機能解析を、次年度に継続して遂行する。また、新規に同定した阻害剤の活性も解析する。経費の使用計画として、細胞培養と、遺伝子発現の分子生物学的解析を予定している。
すべて 2019
すべて 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件)