研究実績の概要 |
真核細胞は遺伝子発現を抑制するヘテロクロマチンと、遺伝子発現が可能なユークロマチンの2種類のクロマチン構造をもつ。クロマチン研究のモデル生物である分裂酵母においてヘテロクロマチンがゲノム上に偶発的に生成し表現型に影響を与えるという私自身の知見(Sorida et al. Plos Genet 2019)と、ヘテロクロマチン内で突然変異の頻度が上昇する事を示唆する最近の報告(Schuster-Bockler, 2012 Nature)から「偶発的なヘテロクロマチン形成による遺伝子抑制により環境適応後、EHC内での突然変異誘発により、その表現型変化が遺伝的に固定化される」という仮説をたてた。この仮説はエピジェネティックな変異を通して、方向性をもった遺伝的変化が引き起こされるという、適応戦略・進化戦略を考える上で新規・かつ重要な概念となる。この仮説の一番重要なポイントとなるヘテロクロマチン内での突然変異発生率上昇の検証を試みた。そのために既に報告されている(Ragnuathan et al. 2015, Science)薬剤テトラサイクリンの培地により任意のゲノム領域で人為的にヘテロクロマチンを生成・消去できる系を用いてura4遺伝子上にヘテロクロマチンを形成・消去出来る系を構築を試みた。ところが、報告から予想するほど強いヘテロクロマチンが形成されず系の改良に一年以上の時間がかかったが、最終的に解析に十分な抑制能をもつ系の構築に成功した。さらに、その系を用いてヘテロクロマチンの有無による突然変異発生率をFluctuation assay (Luria & Delubruck, 1943, Genetics)を用いて検討を始めた。分裂酵母での突然変異発生率測定の報告はなく、測定条件の最適化にさらに時間を要したが最終的に信頼できるアッセイ系を確立し、現在(2020年5月)解析を行っている。予備的結果ではヘテロクロマチン存在下でura4遺伝子の突然変異発生率が上昇する傾向にあることを見いだしている。
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