研究課題/領域番号 |
18K19285
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
船津 高志 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (00190124)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 生物物理 / ナノバイオ / 細胞・組織 / 生体分子 / 分析科学 |
研究実績の概要 |
細胞が機能を発揮する上で、温度は重要な物理量である。我々は、温度感受性蛍光ポリマーを用いて、細胞内に温度分布があることを示し、細胞内のナノスペースにおける発熱がナノスペースの局所温度上昇を引き起こしていることに気づいた。しかし、現状では、温度計測の空間分解能は光の回折限界の~500 nmに留まっている。この限界を打開するため、本研究では、細胞内の生体分子のラマン散乱光(アンチストークス光とストークス光)を測定することにより、生体分子の温度を計測する技術を開発する。 今年度は、分光装置を購入し、既存の1分子蛍光顕微鏡に組み込むことにより、低周波ラマン分光顕微鏡システムを構築した。Raman 散乱顕微鏡の性能を確かめるため、既に低周波領域に強いピークを持つことが知られているAcetonitrile、DMSO 、Heptane を用いてラマン分光イメージングを行った。いずれもRaman 散乱ピークが観察されたため、本実験系でRaman 観察が可能であることが確認された。続いて、Stokes/Anti-stokes 比の温度依存性を確認するため、顕微鏡付属のインキュベーターを用いて温度を変えたAcetonitrile についてRaman 分光イメージングを行った。その結果、本実験系で温度測定が可能であることが分かった。 次に、量子化学計算より、低周波領域に強いRaman 散乱のピークを持つDiphenyl ditelluride をRaman プローブの候補として選択した。Diphenyl ditelluride のp 位にPEG 鎖を導入し、その先端にHalo ligand を結合することで、細胞内においてHalo タンパク質を発現させた任意の細胞小器官に結合し、その付近でナノスペース温度測定を可能にするRaman プローブを設計した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分光装置を購入し、既存の1分子蛍光顕微鏡に組み込むことにより、低周波ラマン分光顕微鏡システムを構築することができた。また、ラマン温度を測定するのに適した低周波振動モードを含むラマン散乱プローブの候補をリストアップし、さらに新規プローブを合成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
1.蛍光標識したミトコンドリアの温度測定:培養細胞(HeLa細胞、COS7細胞など)の培地にMitoTrackerプローブを加え、ミトコンドリアの膜に選択的に結合させる。Rからミトコンドリアの温度を求める。次に、薬剤を加えてミトコンドリアにおけるATP合成を阻害する。ミトコンドリアの温度上昇を検証する。 2.細胞内のシトクロムcの温度測定:シトクロムcは、ミトコンドリアの内膜に弱く結合しているヘムタンパク質の一種である。このヘムに由来するラマン散乱を測定し、シトクロムcの温度を測定する。 3.核内と細胞質の温度のラマン分光による同時測定:核内と細胞質のラマン散乱による同時温度測定を行う。核内に局所的に存在するものとしてDNA、細胞質に局在するものとしてシトクロムcを測定する。別の方法として、ラマン散乱の強いプローブを細胞内にマイクロインジェクションにより導入し、核内と細胞質に分布するプローブを同時にラマン分光する。 4.表面増強ラマン散乱による高感度化への挑戦:ラマン散乱光を1分子レベルで検出するため、金属ナノ構造表面で観察される表面増強ラマン散乱の検出を試みる。特定の生体分子に対する抗体を結合させた直径50 nmの金ナノ粒子を細胞内にマイクロインジェクションし、このラマン散乱を検出する。これにより、1分子の生体分子の温度を計測できると期待される。
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