細胞が機能を発揮する上で、温度は重要な物理量である。我々は、温度感受性蛍光ポリマーを用いて、細胞内に温度分布があることを示し、細胞内のナノスペースにおける発熱がナノスペースの局所温度上昇を引き起こしていることに気づいた。しかし、現状では、温度計測の空間分解能は光の回折限界の~500 nmに留まっている。この限界を打開するため、本研究では、細胞内の生体分子のラマン散乱光(アンチストークス光とストークス光)を測定することにより、生体分子の温度を計測する技術を開発することを目指した。 このために、既存の1分子蛍光顕微鏡に分光装置を組み込み、低周波ラマン分光顕微鏡システムを構築した。Raman 散乱顕微鏡の性能を確かめるため、既に低周波領域に強いピークを持つことが知られているAcetonitrile、DMSO 、Heptane を用いてラマン分光イメージングを行った。Stokes/Anti-stokes 比の温度依存性を確認するため、顕微鏡付属のインキュベーターを用いて温度を変えたAcetonitrile についてRaman 分光イメージングを行った。その結果、本実験系では、約1℃の分解能で、温度測定が可能であることが分かった。 次に、量子化学計算より、低周波領域に強いRaman 散乱のピークを持つDiphenyl ditelluride をRaman プローブの候補として選択した。Diphenyl ditelluride のp 位にPEG 鎖を導入し、その先端にHalo ligand を結合することで、細胞内においてHalo タンパク質を発現させた任意の細胞小器官に結合し、その付近でナノスペース温度測定を可能にするRaman プローブを設計した。
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