研究課題/領域番号 |
18K19288
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
塚原 俊文 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (60207339)
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研究分担者 |
盛 真友 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 研究員 (90466772)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 終止コドン / リードスルー / 遺伝コード修復 / 修飾塩基 / 合成RNA / 無細胞翻訳系 |
研究実績の概要 |
アミノグリコシド系抗生物質などによって終止コドンを無効化し、翻訳リードスルーを誘導する研究が進展しているが、まだ実用化には至っておらず、また本来の終止コドンをも抑制し、目的以外の多くのタンパク質で終止すべきタンパク質合成が止まらず、余分なC末端を付加してしまう結果にもつながることが懸念されている。また、UをΨ(シュードウリジン)に変換することによって終止コドンをリードスルーする方法も提案されているが、哺乳動物細胞では実用化が困難である。我々は、終止コドンのAあるいはUを化学修飾することによって翻訳リードスルーが誘導される可能性があると考えた。本研究はΨと同様に修飾塩基を用いることで翻訳リードスルーが実現するか否かを検証し、またリードスルー化に有効な修飾塩基を同定することを目標としている。 まず、in vitro翻訳系を用いて全合成RNAのタンパク質合成実験系を確立した。Ribosome binding site(RBS)配列とKozak配列を上流に付加することにより、全合成RNAからのタンパク質合成が可能であることを確認した。また、終止コドンの上流にHis tagを、下流にFlag tagを配置することで終止コドンのリードスルー化を評価する実験系も確立した。 修飾塩基としては5-methyl Uあるいは5-fluoro Uを選択し、終止コドンのUの代わりに修飾UとしたRNAを委託合成し、in vitro翻訳系でタンパク質合成の有無を確認した。再現性は高くないものの、修飾Uを導入した終止コドンではリードスルー現象が発生することが示された。即ち、終止コドンのAまたはUを部位特異的に修飾することによって、ナンセンス変異を有するmRNAだけを特異的にリードスルーできる可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
様々な修飾塩基を含んだRNAを調製するためには化学合成が便利である。そのため、完全化学合成RNAを用いてin vitroでタンパク質合成する実験系を確立した。5’端にRBSとKozak配列を配置した全合成RNAを無細胞翻訳したところ、プラスミドからin vitro転写したmRNAに比べると1/10程度ではあるが、タンパク質の合成が確認出来た。これまで、全合成RNAからのタンパク質合成は確認されておらず、世界で初めての成果であると考えている。 修飾塩基としては、先行研究で成功しているΨおよび5-methyl U、5-fluoro Uを選んで実験を行った。ΨではUの5 位が2級アミンであることを参考に、まず5位がメチル化あるいはハロゲン化されたUを終止コドンに有するRNAを合成し、in vitro翻訳を試みた。 まず終止コドンUAAのUをΨ、5-methyl Uあるいは5-fluoro Uに置換したRNAを委託合成した。陽性対照としては終止コドンの代わりにAAAを用いた。これらRNAを大腸菌由来の合成無細胞翻訳系であるPureSystemとHeLa細胞由来の無細胞翻訳系でタンパク質合成を試みた。反応試料2μlをナイロンメンブレンに滴下し、抗His tag抗体あるいは抗Flag tag抗体でドットブロットした。PureSystemの系ではAAAで翻訳されたタンパク質がHis tag、Flag tag共に確認されたが、Ψ、5-methyl Uあるいは5-fluoro Uではシグナルが弱く、有意な結果は得られなかった。しかし再現性は低いが5-methyl Uあるいは5-fluoro UにおいてΨより強いシグナルが観察される傾向であった。一方、HeLa細胞由来の系ではAAAも含めてシグナルが観察出来なかった。これはユビキチン系による分解のためと推察された。
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今後の研究の推進方策 |
我々は全合成RNAを用いた無細胞翻訳系でのタンパク質合成と検出に成功したが、残念ながら合成量が低く、再現性の乏しい実験結果しか得られなかった。そこで、タンパク質合成量を増加させるため合成RNAの上流にIRES配列をin vitroで付加することとした。両者の結合は両者に相補的なsplint oligoとRNAリガーゼによって実現できる。IRESを有するRNAが調製できればタンパク質合成効率が格段に改善し、実験の再現性が向上すると考えられる。 修飾塩基としては、Ψ、5-methyl U、5-fluoro Uの他、N3-methyl U、4-thioU、5-amino Uなどを試みる。これまでと同様、修飾塩基を含むRNAを委託合成し、IRES配列付加後にPureSystemおよびHeLa細胞由来の無細胞翻訳系でタンパク質合成し、反応産物をドットブロットで評価する。HeLa細胞由来の無細胞翻訳系でのタンパク質合成時にProteasome阻害剤を加えることでタンパク質分解を抑制するができる。さらに様々な修飾塩基を含んだRNAを用いて終止コドンのリードスルーに有効な修飾塩基を同定する。 有効な修飾塩基が見つかれば、当該塩基修飾を触媒する人工酵素複合体システムを創成する。既にほとんどの塩基修飾を触媒する酵素は同定されており、当該塩基修飾酵素の遺伝子断片は入手可能である。我々はこれまでにデアミナーゼの活性部位と標的RNAに相補的なguide RNAをMS2システムで結合させ、標的の塩基の脱アミノ化修飾に成功している。従って、同様の方法を利用して標的RNAの終止コドンを特異的に修飾することができると考えている。終止コドンのUあるいはAを塩基修飾することでナンセンス変異をリードスルーすることができれば様々な遺伝性疾患の治療が可能であると期待される。
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