研究課題/領域番号 |
18K19292
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
嘉村 巧 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (40333455)
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研究分担者 |
小原 圭介 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (30419858)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞膜 / 脂質非対称 / バイオセンサー / 出芽酵母 / GFP |
研究実績の概要 |
細胞膜の脂質二重層では、内層(細胞質側)と外層(細胞外側)で脂質組成や役割が大きく異なる。本研究では、その様な脂質非対称の状態を生きた細胞でリアルタイムにモニターできる脂質非対称バイオセンサーを開発することを目指している。これまでに、脂質非対称センサータンパク質Rim21のC末端細胞質領域(Rim21C)にGFPを融合したGFP-Rim21Cを用いることで、生きた出芽酵母細胞で脂質非対称変化をモニターできることを報告している。平成30年度は、この雛形に対して点変異導入を行い、感度やダイナミックレンジの異なる改良版を作製した。具体的には、脂質非対称センサーモチーフやその周辺で保存性の高い配列に変異を導入したGFP-Rim21Cの挙動を出芽酵母細胞で追跡した。その結果、保存性の高いWEW配列に変異を導入することにより、通常状態で雛形よりも細胞膜への親和性が強く、かつ脂質非対称が変化した際には雛形と同様に細胞膜から解離する変異種を作製することに成功した。このことにより、脂質非対称の変化をより高いコントラストで検出できる様になった。また、この変異配列を有するRim21Cをタンデムに連結することで、より細胞膜への親和性が増したプローブも作製することができた。 これらのバイオセンサーシリーズの挙動を、様々な環境ストレス下でモニターしたところ、出芽酵母細胞をアルカリストレス、および高塩ストレスに暴露した際にバイオセンサーが細胞膜から解離した。この結果は、これらのストレス下で細胞膜の脂質非対称が変化している可能性を示しており興味深い。また、高塩ストレス下におけるバイオセンサーの細胞膜からの解離では、バイオセンサーの変異種ごとに反応の度合いが異なった。このことは、反応するダイナミックレンジが異なるバイオセンサーシリーズが作製できたことを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は、雛形であるGFP-Rim21Cに点変異を導入し、感度やダイナミックレンジの異なる脂質非対称バイオセンサーシリーズを作製することを試みた。点変異の導入は、センサーモチーフ領域や周辺の保存性の高い配列に対して行った。その結果、保存性の高いWEW配列に変異を導入することで、より高いコントラストで脂質非対称の変化を追跡できる改良版を作製することが出来た。このことは平成30年度で一番大きな成果である。さらに、その変異を導入したRim21C配列をタンデムに連結することで、よりダイナミックレンジが変化した(より強い脂質非対称刺激に対して反応する)変異種も作製できた。この様に、感度やダイナミックレンジの異なるバイオセンサーシリーズの作製におおむね成功したと言える。 また、それらのバイオセンサーシリーズの挙動を、様々な環境ストレス下で培養した出芽酵母で観察したところ、外界のアルカリ化、および高塩ストレスに曝した際にバイオセンサーが反応した。このことは、これらのストレスによって脂質非対称の状態が変化していることを示唆している。興味深いことに、脂質非対称センサータンパク質Rim21は、アルカリストレスおよび高塩ストレスへの適応に必要であることが知られている。今回観察されたバイオセンサーの挙動は、これらのストレスが細胞膜脂質非対称の変化を引き起こすことを通して脂質非対称センサーに感知されている可能性を示しており、外界ストレスの感知に対する新たな仕組みの発見となる可能性がある。 この様に順調に進行した部分や予想外の知見を得ることが出来た面が有る。一方で、このバイオセンサーの動植物細胞への応用に関しては、平成30年度はプラスミドの作製にとどまっており、予定通りに進行したとは言えない。 これらを総合すると、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、作製したバイオセンサーシリーズの挙動を引き続き様々なストレス環境下で追跡し、外部環境の変化と細胞膜脂質非対称の状態との関連を突き詰める。このことにより、細胞膜の脂質の状態が外部環境を直接的に反映する鏡として機能する、という新たな概念の発信を目指す。 また、GFP-Rim21C雛形に導入した変異が細胞膜への親和性を変化させた仕組みを明らかにする。具体的には、Rim21Cやその変異種の組換えタンパク質を作製し、様々な脂質組成の人工膜との相互作用をin vitro実験により調べる。このことにより、Rim21Cに存在するセンサーモチーフが認識する脂質分子種やその組み合わせなどを明らかにし、導入した変異がどの様な影響を与えているかを明らかにする。この様なin vitro実験により、センサーモチーフが認識する脂質分子種やその組み合わせが明らかになったら、その様な脂質分子の量や分布が異常になる出芽酵母の変異体細胞を用いてin vivoで検証する。 動植物細胞への応用も進める。まずは、作製したバイオセンサーシリーズを動植物細胞で一過的に発現し、脂質非対称変化が起こる状況下(アポトーシス時、細胞移動時、極性成長時、細胞質分裂時など)で観察し、動植物細胞で使用可能なバイオセンサーを選抜する。選抜されたバイオセンサーに関して、植物個体や動物培養幹細胞に導入し、その挙動を観察する。これにより、細胞分化や組織構築に際した脂質非対称変化を、形態的変化が現れる以前に前兆として検出することを目指す。また、これまで脂質非対称変化との関連が知られていない現象に関して、新たな関連性を発見することも目指す。さらには、超解像度顕微鏡を用いて、細胞内で局所的に変化するサブセルレベルの脂質非対称変化を検出する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由)平成30年度は、試薬や器具類の効率的な使用により、想定したよりも物品費が少額で済んだ。そのため、次年度使用額が生じた。
(計画)平成30年度に予定通りに進まなかった部分(動植物細胞への応用、脂質結合実験など)を重点的に推進する予定であるが、この部分には高額な試薬類が必要であるため、消耗品の購入費用に大部分を充てる。また、得られた成果を論文や学会で発表する際の校閲費や旅費、その他として通信費、複写費、印刷費などにも充てる予定である。
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