細胞膜の脂質二重層では、内層(細胞質側)と外層(細胞外側)で脂質組成や役割が大きく異なる。本研究では、その様な脂質非対称の状態を生きた細胞でリアルタイムにモニターできる脂質非対称バイオセンサーを開発することを目指している。これまでに、脂質非対称センサータンパク質Rim21のC末端細胞質領域(Rim21C)にGFPを融合したGFP-Rim21Cを用いることで、生きた出芽酵母細胞で脂質非対称変化をモニターできることを報告している。平成30年度は、この雛形に対して点変異導入を行い、感度やダイナミックレンジの異なる改良版を作製した。具体的には、脂質非対称センサーモチーフやその周辺で保存性の高い配列に変異を導入したGFP-Rim21Cの挙動を出芽酵母細胞で追跡した。その結果、保存性の高いWEW配列に変異を導入することにより、通常状態で雛形よりも細胞膜への親和性が強く、かつ脂質非対称が変化した際には雛形と同様に細胞膜から解離する変異種を作製することに成功した。このことにより、脂質非対称の変化をより高いコントラストで検出できる様になった。また、この変異配列を有するRim21Cをタンデムに連結することで、より細胞膜への親和性が増したプローブも作製することができた。 これらのバイオセンサーシリーズの挙動を、様々な環境ストレス下でモニターしたところ、出芽酵母細胞をアルカリストレス、および高塩ストレスに暴露した際にバイオセンサーが細胞膜から解離した。この結果は、これらのストレス下で細胞膜の脂質非対称が変化している可能性を示しており興味深い。また、高塩ストレス下におけるバイオセンサーの細胞膜からの解離では、バイオセンサーの変異種ごとに反応の度合いが異なった。このことは、反応するダイナミックレンジが異なるバイオセンサーシリーズが作製できたことを意味している。
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