研究課題
細菌のべん毛モーターは、細胞膜を介したイオンの電気化学勾配を回転力に変換するナノマシンで、固定子内を共役イオンが流れる際に、回転子と固定子が相互作用して回転力が発生する。ところが、回転機構を理解する上で決定的に重要な回転子と固定子の物理的な相互作用は未だに検出されておらず、イオン流に共役した両者の結合・解離の実態は全くわかっていない。そこで、生細胞のモーター内において、できる限り長時間固定子と回転子を相互作用させ、その条件において要素間光架橋または蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)といった高感度の手法により検出することを考えた。昨年度の段階で、固定子と回転子のアミノ酸残基間の光架橋を、すでに方法が確立している大腸菌を材料として試み、実際に光架橋がかかることを見出していた。そこで当初の予定を変更し、FRET実験は行わず光架橋に焦点を当てて研究を進めた。これまでに遺伝学的解析から、固定子Aサブユニットの細胞質側領域と回転子タンパク質FliGのC末端側ドメインが静電相互作用することが知られている。大腸菌のFliGにおいて、C末端荷電残基に光反応性架橋基を持つ非天然アミノ酸(pBPA)を部位特異的に導入し光架橋を行ったところ、281および288番目の残基と固定子タンパク質MotAとの架橋が再現性良く検出できた。さらに、Na+駆動型ビブリオ菌固定子PomAの細胞質側領域において、系統的にpBPAを導入し大腸菌FliGとの架橋が起こるかを検討したところ、これまで遺伝学的に静電相互作用が示されていた荷電残基とその周辺の複数の残基において、FliGとの光架橋が検出された。架橋効率の高い残基は、PomAの構造予測モデルにおいて、αヘリックス上に一列に並ぶように点在していた。この光架橋がモーター回転時の相互作用を阻害するか今後検討していく。
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