研究課題/領域番号 |
18K19297
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
白川 昌宏 京都大学, 工学研究科, 教授 (00202119)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 液滴様構造体 / 光検出磁気共鳴法 / ODMR-FIONA |
研究実績の概要 |
近年、ダイヤモンド結晶の様なワイドバンドギャップ半導体中に含まれる結晶格子欠陥の中で、超高感度磁気検出に利用可能な格子欠陥が「量子センサー」と呼ばれ注目されている。たとえばダイヤモンド結晶中の不純物窒素原子(N)と空孔(V)からなる複合欠陥「窒素-空孔中心(Nitrogen-vacancy center; NVC)」は、(1)室温で安定な三重項電子を持つ、(2)その三重項電子が可視-近赤外波長域で優れた蛍光特性を持つ、(3)その蛍光現象が三重項電子のスピン量子状態と厳密に共役している、(4)三重項電子のスピンを室温で光ポンピング可能である、などの特性を兼ね備えている。特に、光を利用してスピン量子状態を検出する方法は「光検出磁気共鳴法(Optically detected magnetic resonance; ODMR)」と呼ばれ、蛍光顕微鏡を用いて定量的に磁気イメージングが行える手法として注目されている。更に、磁気共鳴周波数は回転運動や温度などを敏感に反映することから、細胞内現象の可視化など生命計測への応用が期待されている。本研究では、NVCを高濃度で有するダイヤモンド結晶をナノサイズの微粒子(ナノダイヤモンド)に加工し、ナノダイヤモンドを分子標識プローブとして活用し、ODMR計測することで生体分子の細胞内の向きや回転、粘性、温度等のパラメータを精密に計測する、という技術開発を試みてきた。特に核内での特定のゲノム領域をナノダイヤモンドでターゲティングし、これにより複数箇所のクロマチン構造についてODMR法を用いた同時観察を実現するために、ナノダイヤモンドの細胞導入技術の開発、細胞内ODMR計測技術の開発、CRISPR/dCAS9システムを用いたナノダイヤモンドによる核内DNA標識技術の開発などを行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で開発する新規技術を構成するのは(1)細胞内へのナノダイヤモンド導入技術、(2)ODMRによる計測技術、(3)タグ付きdCas9に対するナノダイヤモンド標識技術の3つの技術基盤である。(1)については、ワンポット合成法の開発により効率的なナノダイヤモンド親水化による非特異的細胞吸着の排除を実現し、その性能試験としてミトコンドリア局在シグナルペプチドで親水化ナノダイヤモンドを修飾することにより、細胞内のミトコンドリアについて経時的に温度変化を計測することに成功している。従って技術基盤(2)の開発についてはクリアされた。更に(2)については、ODMRによる超解像イメージング技術の開発、高精度のナノダイヤモンド回転運動計測技術の開発、更にこれを細胞内分子に適用した性能試験に成功した。従って技術基盤(2)の開発についても概ねクリアされた。また(3)については、更に(3-1)ナノダイヤモンドの更なる小粒子化、(3-2)一本鎖抗体へのナノダイヤモンド付加技術の2つの異なる技術の組み合わせが必要である。(3-1)については、粒子径5ナノメートルの爆轟法ナノダイヤモンド(Detonation Nanodiamond)にNVCを形成する新規手法を発見した。(3-2)については、重要な技術的端緒であるタグ付きdCAS9に対する特異的一本鎖抗体(scFv)の調製を行った。以上に述べた理由から、個別技術については更なる開発が必要ではあるが、本技術にとって必要な要素技術の開発は概ね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
この研究が目指す技術的な目標は3つある。それは(1)特定ゲノム領域に標識したナノダイヤモンドを用いて、標識ゲノム領域のナノ回転運動性を超高分解能一分子ナノジャイロセンシング法によって3次元決定し、粘性を測定すること、(2)ナノダイヤモンドを用いた超解像イメージング技術であるODMR-FIONA法(ODMR-fluorescence imaging with one-nanometer accuracy)を用いてナノ並進運動を捉えること、更に(3)その際の熱力学的なパラメータを得るためにナノ温度計測を行うことである。いずれも我々のグループが独自に開発するものであり、先進的な定量イメージング技術であるが、少なくとも時間分解能について2桁程度、温度精度については5桁程度の技術的な改良が必要であると考えている。そのために現在、ダイヤモンドの高輝度化と横緩和時間の延長などのマテリアル開発、ODMR計測のためのパルススキームの最適化など、技術開発を進めている。これにより、最低でもマテリアルサイドで2桁、計測技術で2桁程度の技術向上は将来的に期待できる。従って、今後の研究の推進方策としては、まずこれらの開発を推し進めることで技術基盤の拡充を図る。更に、核内での特定のゲノム領域のターゲティングはについては、現在進めているCRISPR/dCAS9システムとナノダイヤモンド分子標識システムとの融合を更に推し進める。このために、既に開発したタグ付きdCAS9特異的なscFvで親水化ナノダイヤモンドを修飾し、sgRNAを介した特定ゲノム領域の標識を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
H30年度に計画していた実験をH31年度に行うこととなったため、当初予定していた生化学試薬、化学合成試薬、実験器具等の購入はH31年度となった。
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