研究課題
本研究の目的は、遺伝暗号系におけるコドンとアミノ酸の対応関係の正確さを改変することにより、以下の2点を追及することにある。(1)生命がなぜ、遺伝物質としてのDNAと機能物質としてのタンパク質の2種類の高分子の相互作用を活用するに至ったか、という点に対する考察。(2)タンパク質人工進化の効率化の工学的活用。本研究おけるタンパク質の人工進化は、変異を導入した遺伝子に対して、tRNA変異体の添加によって合成の正確さを任意に低下させられるタンパク質合成反応によって行う。多数並列された個々の試験管が、それぞれ固有の一種類の配列のDNAを含む様式で準備される。このホモな配列からなるDNA分子集団から合成されるタンパク質は、本研究では、いずれかの残基に変異が導入されたヘテロな集団となる。このヘテロな集団としての活性を評価した人工進化の過程を観察、解析することで、まずは蛍光タンパク質、続いて酵素についての進化工学を行い、各種生命の初期段階での進化の普遍原理を解明することを目指した。本研究の最初の標的となるGFPについて、配列空間上の適応度地形を描画するために、約400種類のDNAそれぞれから合成されたGFPの蛍光を測定した。その結果、変異を導入するごとに、最初は1割程度、続く変異では5%程度の変異体が、親配列よりも強い蛍光を示すことを明らかにした。また、遺伝子が指定する配列に対して、曖昧な(多義的な)翻訳を行うことにより人工進化が加速することを、タンパク質の人工進化を計算機上でモデル化した系について、組換えを取り込んだより一般的な手法を用いたシミュレーションを行った。
2: おおむね順調に進展している
シミュレーションは、それぞれ進化を加速することを示していた、曖昧な(多義的な)翻訳、組換え、双方を組み合わせることで、進化がより加速することを示している。続く実験が、確度高く進むことが期待される。
進化を加速させるためにはどのような移動平均暗号が最適か、ということについて現時点では不明であり、これを本研究で探索する必要がある。この探索には、遺伝暗号改変における柔軟性が重要になっている。この点に対応して本技術では、どのコドンに対してアラニン又はセリンの混入を行うか、どの程度の混入割合になっているかという点について、柔軟性のある種々の移動平均暗号表の構築が可能になっており、探索範囲の拡張を行う。
計算機実験が想定よりも興味深い結果を示したため、この解析に時間を費やした。その対価として生物実験の量が減り、次年度使用額が生じた。次年度は、生物実験の量を拡大するため、消耗品代が多く必要となる計画である。
すべて 2019 2018 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Astrobiology (ed : Yamagishi, Akihiko, Kakegawa, Takeshi, Usui, Tomohiro) ISBN 978-981-13-3639-3内
巻: . ページ: 77~90
10.1007/978-981-13-3639-3_6
ACS Synthetic Biology
巻: 7 ページ: 2537~2546
10.1021/acssynbio.8b00188
Protein Expression and Purification
巻: 149 ページ: 17~22
10.1016/j.pep.2018.04.006
https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/seibutsukiso/archive/chapter001.html