現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ER陽性乳がんの内分泌療法抵抗性モデル系であるLTED細胞では、ノンコーディングRNA群であるエレノアRNAが高発現している。エレノアはエストロゲン受容体 (ER)タンパク質をコードするESR1遺伝子およびその近傍の3遺伝子群を含む、およそ0.7 Mbのゲノム領域から転写される。この領域はTAD (topologically associating domain) におおよそ相当し、ES細胞(幹細胞)では転写不活性なB-コンパートメントに、乳腺に分化した細胞(MCF10A)ではそこから逸脱し、乳がん細胞(MCF7)では転写活性なA-コンパートメントに遷移する。このドメインの遷移がエレノアの発現によるものかどうかを明らかにするために、エレノアRNAをレスベラトロールで阻害したLTED細胞を準備し、コントロールのLTED細胞とともに、 Hi-C解析を行った。その結果、ドメインごと、コンパートメントが変化することはないものの、エレノアの発現に重要なシス因子部位でのクロマチン相互作用様式に変化をみとめた。従って、エレノアRNAは局所的な3Dゲノム構築に重要であることが明らかになった。これらの研究成果を論文報告した(Abdalla MOA et al, Nature Commun, 2019, Yamamoto T et al, Curr Opin Cell Biol 2019, Tachiwana et al, Curr Opin Genet and Dev, in press)。
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今後の研究の推進方策 |
今までの研究をさらに発展させる。今までに、再発乳がんモデル細胞LTEDおよびこの細胞をレスベラトロール処理することによりエレノアを阻害したLTED-RES細胞について、それぞれのHi-Cデータを得ている。これについて今までは、エレノアTADに限定して解析を行い、上述した研究成果を得た(Abdalla MOA et al, Nature Commun, 2019)。今後は、これをさらにゲノムワイドな解析に発展させる。レスベラトロール処理によって、TAD全体がB→A、またはA→Bに変遷するクロマチン部位を抽出する。またそこに関わる可能性を持つ新規ノンコーディングRNAを見出す。これは、エレノア TAD と同様にノンコーディング RNA で規定される可能性のあるドメインを同定し、ノンコーディングRNAの関与のメカニズム、ドメイン内の遺伝子群の転写状態への関与などを明らかにすることとなる。TAD 形成と維持、コンパートメント遷移に関わる普遍的な事象を抽出する。
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