研究課題
本研究では通常の顕微鏡画像を元として、画像処理・機械学習を用いて、細胞集団中の各種細胞タイプ、細胞状態の検出を簡便に、かつ高精度で行う画像解析技術とシングルセル(scRNA-Seq)解析を組み合わせ「細胞の表現型」を定量的に記述する技術の確立を行うことを目的とする。今年度は、CD34陽性ヒト臍帯血へ山中4因子を導入し、iPS細胞をつくる過程における細胞状態、細胞タイプの変化をタイムラプス撮影で記録し、集団中の細胞の分類、定量を行う画像処理技術の開発を実施した。今回のiPS形成プロセスでは、遺伝子導入後4日目頃から細胞が基質に付着し始めており、それ以前にリプログラミングが開始していることが示唆された。付着細胞コロニーを含む8領域のタイムラプス画像を取得し解析したところ、10日目頃から3領域でiPS細胞に類似した形態のコロニーが出現し、4領域では13日以降にiPS様細胞が出現するなどコロニーにより脱分化の進行速度に違いが認められた(残り1領域ではiPS細胞は未形成)。各領域で出現したiPS様細胞を用手的に単離、継代することにより、iPS細胞株として樹立することに成功した。これと並行して、各分類群に属する細胞内の遺伝子レベルの変化を検出するためのscRNA-Seq解析を開始した。出発材料である臍帯血に遺伝子導入後、細胞が付着する前後のDay3、Day4、iPS細胞が出現し始めるDay13からDay20まで計512個の細胞を採取し、scRNA-Seqライブラリーの作製を完了した。今後、それらのライブラリー解析によって遺伝子発現情報を取得し、細胞集団中の細胞種の同定を行う。次に、形態情報、遺伝子情報それぞれによって同定された細胞種の関連を追究する。
3: やや遅れている
当初の予定どおり、ヒト臍帯血からのiPS形成実験を実施し、画像取得と単一細胞のサンプリング、および512のシングルセルライブラリーの作製まで行った。並行して、画像処理と機械学習を組み合わせた細胞予測技術の開発も進めている。サンプリング数が増加したため、ライブラリー作製に時間を要したが、次年度の早い段階で充分遅れを取り戻せる状態にある。
昨年度までに作製したシングルセル解析用のライブラリーの配列決定を行い、遺伝子発現情報を取得する。その情報学的解析により、リプログラミング過程のステージ分類を行い、各ステージにおける細胞種の同定、それぞれに特徴的な生物学的パスウェイを検索する。シングルセルRNA-Seqデータの解析を行い、細胞集団中の細胞タイプを分類する。形態情報によって分類された細胞種と遺伝子情報を基にしたクラスとの関連付けを行い、細胞形態から発現プロファイルを含めた細胞表現型の予測を試みる。
ヒトiPS細胞形成過程の細胞サンプリングと多数のシングルセルライブラリーの作製を実施し、その品質チェックを行ったところ、一部のライブラリーが品質基準を満たさなかったため、再度の作業が必要となった。年度内にライブラリー作製は終了し、次世代シーケンサーによるシーケンス解析を外注で実施する予定であった。しかし、年度末に近づいていたため、年度内の納期が守れない可能性があり、シーケンス解析は次年度に行うこととしたため、資金の繰越しを行うこととなった。
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