研究課題/領域番号 |
18K19313
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
小松 直貴 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (30737440)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | タンパク質ビオチン化 / 蛍光タンパク質 / 光操作 / ライブイメージング / リボソーム / 遺伝子発現解析 |
研究実績の概要 |
本研究では光により活性化するタンパク質ビオチン化酵素(以下、光ビオチン化酵素)を構築し、それを用いて任意のタイミングかつ任意の細胞におけるmRNAを光照射により標識、回収するための方法を開発する。この新規細胞内mRNA標識回収法を用いることにより、ライブイメージングで同定した細胞について選択的に遺伝子発現解析を行うことが可能か、検証することを目的としている。平成30年度は光ビオチン化酵素を大腸菌由来birAならびに光変換蛍光タンパク質の一種、PhoClおよびpdDronpaを用いて遺伝子工学的に作製することを試みた。はじめにbirAの全長について、そのN末端側とC末端側の両方にPhoClとエストロゲン受容体であるERT2をタンデムに付加した融合タンパク質を構築した。PhoClは405 nmの光により光開裂するタンパク質であり、ERT2は自己阻害ドメインとして機能する。すなわち光を照射する前はbirAがPhoCl-ERT2によりケージングされており、光照射によりケージが外れてbirAが不可逆的に活性化することを期待した。構築した光ビオチン化酵素およびリボソーム構成因子の一つ、RPL10Aに被ビオチン化配列であるAvitagを付加したAvi-RPL10Aを光ビオチン化酵素の基質として培養細胞に発現させ、光照射を行った。光照射の有無でAvi-RPL10Aのビオチン化状態に違いがあるか、ウェスタンブロッティングにより検討したところ、期待に反して、光無しにも関わらず基質の大部分がビオチン化されているという結果を得た。すなわちbirAのケージングが不十分であることが示唆された。PhoCl-ERT2の代わりにpdDronpaを用いた融合タンパク質も構築し、先述の酵素同様に解析を行ったが、やはり光無しでも基質のビオチン化が起きており、birAのケージングが不十分であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
PhoClやpdDronpaを利用した転写因子やタンパク質リン酸化酵素の活性操作系はすでに報告されており、同様のアプローチにより光ビオチン化酵素も比較的容易に開発できると当初期待した。しかしながら実際にはbirAを単純に光変換タンパク質でサンドイッチするだけでは目的の酵素を開発することはできず、birAのケージングにはさらなる工夫が必要であることが考えられた。このため当初予定よりも光ビオチン化酵素の開発に遅れが生じている。mRNAの回収法に関しては、ビオチン化を受けたAvi-RPL10Aが細胞内のリボソームに取り込まれることは平成30年度の検討により確認しているものの、未標識細胞を多数含む集団から標識細胞由来のリボソームおよびリボソームに結合するmRNAを精製・回収する方法の検討については先述の光ビオチン化酵素の開発困難性の影響を受けて未着手であり、こちらも実施が遅れている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
光ビオチン化酵素の開発を引き続き進めていく。今後は前年度の検討では試さなかった、birAのドメイン分割を行い、さまざまな位置で分割したbirAとPhoClもしくはpdDronpaとの融合タンパク質を作製することで、birAの十分な不活性化および光依存的な再活性化がおきる組み合わせを探索する。既に報告されている、pdDronpaを用いたタンパク質リン酸化酵素の活性操作系もドメイン分割を行ったリン酸化酵素の光依存的な再構成を利用しており、本開発方針は開発の手間自体はかかるものの、成功が見込まれる戦略であると考える。BirAに関しては野生型よりも高活性かつN末端側ドメインを削除することで分子量を元の35kDから28kDへと小さくした改変型のbirA (miniTurbo)がBranonらによって報告されている。今後はbirAに加えてこのminiTurboについても検討を行う。分子量がより小さくなったことで光変換蛍光タンパク質によるケージング/アンケージングが効率よく起きることを期待する。本研究ではリボソーム構成因子RPL10Aの光ビオチン化およびリボソーム-mRNA複合体の精製回収に基づくmRNA回収法の開発を目標としている。最近では、ビオチン化酵素のある種の変異体を用いて、標的タンパク質と近接する(相互作用する)タンパク質をビオチン化ラベルし、ビオチン化タンパク質を選択的に回収、質量分析により同定するというPL(proximity labeling)法が利用可能となりつつある。本研究で開発予定の光ビオチン化酵素もこのPL法にも原理上適用可能であるため、今後は当初計画の光ビオチン化酵素のmRNA解析への応用に限らず、タンパク質解析への可能性についても検討を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始当初は、本研究で計画している遺伝子発現解析に必要な次世代シークエンシングデータ解析ソフトを購入予定であり、そのための経費が使用予定額の大半を占めていた。しかしながら光ビオチン化酵素の開発にあたり、酵素タンパク質の機能評価を高効率化する必要性が判明した。具体的には複数の候補タンパク質について、さまざまな光照射条件を並列して検討する必要があることが分かった。そのような光照射を行うためのLED照射デバイスを購入するにあたり必要な経費を確保するため、上述の解析ソフトの購入を一旦見送った。一方でLED照射デバイスの機器選定に時間を要しており、購入が遅れている。これらの理由により次年度使用額が生じた。次年度ではLED照射デバイスの購入に当該助成金を使用予定である。また、LED照射デバイスに加えて蛍光顕微鏡を利用することで光ビオチン化酵素の光応答性を評価することを並列して検討中であり、そのための顕微鏡システムの機能拡充、具体的には自動焦点合わせ装置や顕微鏡用細胞培養装置の購入に当該助成金を使用することを現在検討している。
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