本研究では、ライブイメージングで狙いを定めた1~数個の細胞について選択的に遺伝子発現を解析するための方法論の構築を目標とし、目標達成に必要となる、細胞内のタンパク質分子(の一部)を光依存的に化学修飾するためのツールの開発を行っている。2021年度(最終年度)は、前年度に引き続き、光依存的に細胞内タンパク質をビオチン化する酵素(以下、光ビオチン化酵素)の開発に取り組んだ。具体的には、ビオチン化酵素の高活性型変異体の一つであるTurboIDについて、TurboIDタンパク質の立体構造のうちループ構造に該当するアミノ酸の位置にて、タンパク質をN末端側とC末端側の2つに分割し、分割した各断片を光依存的にヘテロ2量体化するタンパク質ペアであるiLiD/sspBにそれぞれ連結した分子を設計した。設計した分子の一方については、光依存的な近接を検証する目的で、形質膜局在化シグナル配列を付加した。もう一方については局在化配列を付加しないことで、細胞質に発現するようにした。続いて設計したタンパク質を発現するためのプラスミドを遺伝子工学的に構築した。構築したプラスミドをHeLa細胞に一過性発現させ、まず光依存的な分割断片の近接が起きるか、融合タンパク質の細胞内局在について蛍光顕微鏡観察したところ、光依存的かつ可逆的に細胞質局在型の融合タンパク質が形質膜に移行した。すなわち光依存的にビオチン化酵素断片の近接を誘導できることを確認した。今後はビオチン化酵素の分割断片の近接を光で誘導することにより、実際にビオチン化酵素の再構成ならびにビオチン化酵素活性の回復がおきるか、抗ビオチン抗体による免疫染色により確認する予定である。
|