研究課題/領域番号 |
18K19319
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
河村 幸男 岩手大学, 農学部, 准教授 (10400186)
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研究期間 (年度) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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キーワード | 低温馴化 / 植物 / 冬季感知 / 温度ノイズ / 季節情報 / 機械学習 / 重回帰分析 |
研究実績の概要 |
本研究では植物の野外における秋から初冬にかけての冬季感知メカニズムの解明を目指す。特に、1)植物が冬季感知に利用している環境パラメーターの特定、2)その分子メカニズムの解明、を目標とする。 1の項目では、1週間の低温馴化処理のみを野外で行い(野外処理)、凍結耐性試験により馴化の深まりを測定してきた。野外処理は1週間に2回のペースで2018年8月から2019年5月まで行った。得られた生存率データをシグモイド曲線により近似を行い、凍結耐性を2つのパラメーターで表した。また、気温、葉温、光量、波長分布の気象データは、野外処理の場所で測定したものを使用した。重回帰分析および機械学習により関連性を解析したところ、2つの凍結耐性パラメーターは、1週間の気温データのみでほぼ予測できることが明らかとなった。2の項目の分子メカニズムの解明では、野外馴化でのRNA-seq解析、および、フィトクロム欠損株を用いた解析、の2つの方向から進めた。まず、RNA-seq解析については、当初の予定より約20分の1の値段で解析を行える受託会社が見つかり、実施計画の大幅な充実化を行い、野外実験を2019年9月末から12月末に掛けて行った。その一方で、受託会社の解析終了は2020年度4月末まで必要となり、研究期間を延長した。次に、フィトクロム欠損株を用いた解析では、5つの欠損株(phyAからphyE)を用いて、まず、一般的な2℃一定12時間明期での低温馴化処理で検討を行った。現在までの結果、明確に野生型と異なるのは、phyB欠損株のみであり、また、野生型と比べて低温馴化後の凍結耐性は低くなった。phyB欠損株のみ更に実験を進め、昼夜で気温差を付ける系および野外の気温変化を模倣した系で低温馴化処理を行ったところ、2℃一定の低温馴化と比べ、WTとphyB欠損株の凍結耐性の差がより大きくなる傾向が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本申請研究は、研究機関の延長を申請したが、これは研究の遅延のためではなく、当初予定よりもトランスクリプトーム解析のサンプル数を大幅に増やせたためである(12サンプルから231サンプル)。そのため、当初予定では無かったRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を9月から12月にかけての野外馴化および一般的な2℃一定の低温馴化で行うことが可能となった。また、大規模な生理学的データ(凍結耐性試験)と気象データを組み合わせて解析する方法でも、新たに機械学習を取り入れ、単純な重回帰分析よりも両者の関係性が明確に出来る様になった。2020年4月にRNA-seqデータが得られたので、今後、気象データ、生理学的データおよびトランスクリプトームデータを組み合わせることにより、季節感知の分子メカニズムを数理的に明らかに出来る基盤が整えられた。一方で、実験内容が当初よりも大幅に増えた中でも、フィトクロム欠損株を用いた解析も順調に進められた。この解析では、5つのフィトクロム(phyAからphyE)のうち、phyBが低温馴化のキーファクターであることが特定でき、更に、温度一定での低温馴化よりも野外のように昼夜で温度が変化する環境の方が、phyBによる影響が大きいことも明らかとなってきた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、気象データ、生理学的データおよびトランスクリプトームデータを組み合わせることにより、季節感知の分子メカニズムを数理的に明らかにすることに、特に集中する。一方で、野外実験から推定された環境パラメータの人工環境による確認実験、および、欠損株を用いたフィトクロムの影響の検証も並行的に進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたマイクロアレイ解析よりも約20分の1の値段でRNA-seq解析を行える受託会社が見つかり、実施計 画の大幅な充実化を行った。そのため、RNAサンプルの用意が2020年度2月初旬までかかり、また、受託会社の解 析終了も2020年度4月末まで必要となり、期間を延長することとした。解析費用は1354760円であり、また、その他の雑費も考慮し、1,484,583円を次年度予算にまわすこととした。
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