本研究では植物の野外における秋から初冬にかけての冬季感知メカニズムの解明を目指す。特に、1)植物が冬季感知に利用している環境パラメーターの特定、2) その分子メカニズムの解明、を目標とする。 1の項目では、昨年度に引き続き、凍結耐性と気象データとの関連を機械学習により解析を行った。昨年度は、凍結耐性の季節的な変遷は、馴化期間中の葉温データのみでほぼ100%予測できることを報告したが、この予測には未知データ予測による検証は含まれていなかった。そこで、一個抜き交差法による未知データ予測を検討したところ、予測値と実験値とのズレは-0.056±1.5°C(ズレの平均値±標準偏差)であり、それなりの予測は出来ているが正確なシュミレーションを行うにはまだ精度不足であることが明らかとなった。そこで、2021年9月から2022年4月にかけて追加の野外実験を行った。解析終了後に、2018年のデータと組み合わせ、機械学習による解析を行う予定である。次に、2の項目の分子メカニズムの解明では、フィトクロム(phyB)欠損株を用いた解析を、9月下旬(最大23℃最低15℃)、11月初旬(最大15℃最低7℃)12月中旬(最大5℃最低0℃)における気温の日周変化を再現した人工気象器で行い、フィトクロムを介した日長による低温馴化制御について検討を行った。それぞれの温度区で12時間日長(9月)、11時間日長(11月)、9.5時間日長(12月)を検討したところ、まず、9月や11月の気温では日長の影響は僅かであり、また、フィトクロムを介した影響も同様であった。一方で、12月の気温では、野生型では日長の影響はあまり見られなかったが、フィトクロム欠損株では日長が短くなると凍結耐性が低下する傾向が見られた。すなわち、フィトクロムPHYBは、野外では晩秋よりも真冬において凍結耐性を上昇させるために働いていると予想された。
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