近年のクライオ電子線トモグラフィの技術の進展により細胞内のアクチン線維のネットワークの三次元観察が可能となってきている。葉状仮足は、Rhoファミリー低分子量Gタンパク質であるRac1により形成される枝分かれしたアクチンに富むシート状の突起であり、細胞運動や細胞分裂、癌の浸潤転移などにおいて機能するため、その先端のアクチン重合部位の構造を明らかにすることは細胞生物学的にも病理学的にも非常に重要である。本研究は光遺伝学の技術を用いて、青色光によって活性化するRac1光スイッチによって葉状仮足形成を促し、急速凍結した細胞試料をクライオ電子線トモグラフィに供することで、葉状仮足形成におけるアクチンネットワークの経時変化を明らかにすることを目的とした。 過年度までのクライオトモグラフィ像ではS/N比が低く、アクチン線維を正確に抽出することが困難であった。 利用している大阪大学のクライオ電子顕微鏡にボルタ位相板が導入されたことで、S/N比の改善が見込まれた。再度凍結条件を見直しつつCOS-7細胞を凍結し、細胞の周縁部をクライオ電子顕微鏡で連続傾斜像を撮影した。ブロット時間よりも試料間での差の方が大きく、凍結時のブロット条件は定まらなかった。一方で、トモグラフィ像は格段にS/Nの良い像が得られた。細胞膜、リボソーム、微小管、アクチン線維を手動でセグメンテーションをした。今後のハイスループット化に向け、機械学習を用いた自動セグメンテーションについて検討し、細胞膜、リボソームおよび微小管については成功した。一方でアクチン線維については難航している。以上のように、本研究においては細胞周縁部のアクチン繊維のネットーワクの可視化までを達成した。
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